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773 :名無しさんなんだじぇ:2010/09/12(日) 17 40 24 ID .y0Vravg ビリビリ「…………」 あずにゃん「あの、どうしたんですか?」 ビリビリ「ん、ちょっとね……」 あずにゃん「黒子さんの事です…よね?」 ビリビリ「まあ、ね…」 あずにゃん「…………」 ビリビリ「出会ってたった二日間…それでも精一杯恋をして…まったく、死に別れで終わるなんてどこの少女漫画のフルコース展開よ…」 あずにゃん「…………」 ビリビリ「そりゃ、傍から見たらただのつり橋効果かもしれないけどさ…」 あずにゃん「…………」 ビリビリ「あそこに放り込まれる前なら黒子が男子と恋に落ちるとか言われても信じなかったけど…ああ、後は黒子や他のみんなだけでも生き残って欲しいなぁ」 あずにゃん「それは……はい、そうですね……」 ビリビリ「まぁ、そっちも大変なのに私の愚痴に付き合ってくれてありがとう」 あずにゃん「そんな! 私何もしていません! そう、何も…できなくて…すん、すん」 ビリビリ「ああ、もう! 泣かないでよ! 渡すが泣かせたみたいじゃない!」 唯「恋愛か…私も死ぬ前に一度でもいいから恋とかしたかったな…」 律「ホントだよな、でも女子高だったからなのもあるけどみんなで遊んでた方が楽しかったしな…」 ムギ「律さんにはキャスターさんがいるじゃないですか」 律「いや、それはその……そ、それよりも唯、お前は好きな人とかいないのか?」 唯「私? 私はね……」 あずにゃん「先輩……静かに見守るのなら声が聞こえない距離で聞いててください…」 ビリビリ「は、恥ずかしい所を見られたわね。まぁ、いいか。それじゃ帰ろうか?」 あずにゃん「あ、はい!」
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641 :名無しさんなんだじぇ:2010/09/03(金) 18 11 04 ID nvGC8W62 ロリブルマ「ふふーんだ!そっちがルール無用ならこっちだって考えがあるんだから!」 カマやん「頼むぞ、聖杯よ」 ロリブルマ「任せといて!行くわよ! やっちゃえ!バーサーカー!」 ムギ「…そんな!」 バーサーカー「■■■■■■■■■■■!」 ロリブルマ「どう?主催者権限で死者スレ内に限り令呪復活よ!」 D「きょ、狂戦士復活ーっ!琴吹選手防戦一方だーっ!」 K「令呪による強制召喚ならびに命令強制か…この畳み掛け方は流石だな」 カマやん「さて…来たか」 ライダー「魔術師!勝負です!」 アーニャ「狙いは飽くまでイリヤ」 D「あーっと!アーニャ騎、上空からイリヤ騎を強襲ーっ!」 K「サーフィンボードアタックか、ふむ」 642 :名無しさんなんだじぇ:2010/09/03(金) 18 43 58 ID b8I0wJ.c 上条「だぁぁっ、いい加減目を覚ませ御坂!」 ビリビリ「何よ! あのちびっ子とはあんなに楽しそうにじゃれてた癖に、私とは話すのも嫌だっての!? そりゃ、私には胸も無いし、可愛いげも色気も無いけど……私だってアンタの事……!」 上条「駄目だ、幻想殺しが効いてねえ! 畜生、どうにか出来ないのかよ! 何で俺はこんなに無力なんだよ……!」 アーチャー「……止むを得ん、最後の手段だ」 上条「何か手があるのか!?」 アーチャー「見た所、この術式はイリヤの服装が核になっている。 つまり、イリヤを「タイガー道場の一番弟子・ロリブルマ」というキャラクターに置き換える事で術式を固定しているという訳だ」 上条「いや、さっぱり意味不明なんですが」 アーチャー「つまり……こういう事だ!」 上条「え、な、何だこれ!? 何で上条さんいきなり張り付けの刑に!?」 アーチャー「動くなよ、的が外れる。 ……上条ミサイルアロー、発射!!」 上条「ふ、不幸だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁァーッ!!!」 D「ああっとおぉぉぉぉ!! プールサイドから上条当麻を括り付けた巨大な矢が発射されたぁー!」 K「む、流石に幻想殺し相手では荒耶の結界も通用しないか。 矢自体は外れたが、上条当麻がイリヤにしがみついたようだ」 D「な、なんとぉぉぉぉぉ!! イリヤスフィール選手の体操着が消え、水着があらわにーーー!! このままブルマも消えてしまうのでしょうかーーー!!」 K「さて、バーサーカーが助けに入ったからな。 そう簡単には行くまい」 643 :名無しさんなんだじぇ:2010/09/03(金) 19 13 08 ID hF5V4Iig バシャバシャバシャバシャ!!!! 妹A「貴方は計画の邪魔になるので排除します、とミサカは主催サイドの目的を建前に持ち出します」 妹B「貴方は私達ミサカシリーズのモノです、とミサカは心中を暴露します」 上条「ちょ、お前達引っ張るな、ってどこ触っているんだ///」 妹C「とりあえずロリブルマから離れて下さい、とミサカは上条当麻の右足を引っ張ります」 妹E「ハーレムは最高ですよ、とミサカ達はちょっと顔を赤らめながら左足を引っ張ります」 上条「ふ、不幸だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁァーッ!!!」 ザッパーン! D「おおっと!ミサカシリーズが上条当麻を捕縛!!イリヤスフィール選手のブルマは守られたぁーー!」 イリヤ「あ、危なかったわ…」 妹D「ミサカABCEはどうしてしまったのか、とミサカは困惑気味に見つめています」 妹G「今はそれよりアーニャから逃げましょう、とミサカは提案します」 イリヤ「よし、妹D妹Gのブースト承認!アーニャを水中に落として優勝を貰うわよ!!」 ???「そうはいきません」バシャ! 妹D「なに!!これでは動けない!!、とミサカは驚愕の表情を出します」 イリヤ「しまった!貴方の存在を忘れていたわ!!」 妹G「何故あなたは正常なのですか、とミサカは驚きつつ質問をします」 ファサリナ「フフフ、どうやら気絶して平気だったようです」 D「なんとぉー!!ファサリナ選手が妹D選手と妹G選手を抑えたぁー!さらに上空からはアーニャ選手が迫ってきている!!」 644 :名無しさんなんだじぇ:2010/09/03(金) 20 05 38 ID hF5V4Iig ヒイロ「ファサリナ、よくやった」 ムギ「ザ・自爆!ガンダムバカにゴーストも!」 真宵「オーナー、大丈夫ですか?」 ムギ「ええ、ちょっときついけどまだ大丈夫よ」 ライダー「しかし、バーサーカーの裏切りは予想外です。魔術師も相手にしなければならないのに、骨が折れるわ」 アチャ「なら私がバーサーカーの相手をしよう。お前達は荒耶宗蓮を任せる」 海原「……また一人で倒すと言うのですか?無謀ですよ!貴方の攻撃は耐性で効きませんよ!」 アチャ「ふん、時間稼ぎぐらいにはなるさ」 ムギ「なら、アーチャーさんとライダーさんはバーサーカーさんを食い止めて下さい。私は海原君と共にあの魔術師を討ちます」 アチャ「……いいだろう。ライダー、足を引っ張るなよ」 ライダー「それはこっちのセリフですよ」 刹那「では、俺達は事態収拾のためにイリヤスフィールの捕縛しに向かう」 ムギ「ええ、任せるわガンダムバカ。ゴースト、彼らの補佐を宜しくね」 真宵「任せて下さい!」 カマやん「ふむ、戦力増強と共に各個撃破しに来たか。サーシェス、イリヤスフィールを狙う輩を排除しろ」 首輪ちゃん「オーケー!あのガキ共は俺に任せな!くぅーっ!この緊張感、ワクワクするぜぇ!!」 カマやん「アーチャーとライダーでバーサーカーを食い止めるか。それに琴吹紬と魔術師エツァリ……もう一人ぐらい戦力が欲しいところだが」 ことみー「なら私が手を貸そう」 カマやん「言峰綺礼か。実況中継の解説はどうした」 ことみー「今の私は審判だ。ただ暴徒を抑えに来ただけさ」 カマやん「そうか、ならその手を借りるぞ」 ヒイロ「まずい、ファサリナが妹達の電撃攻撃を受けている。急ごう」 リリーナ「ヒィィィイィィィロォォォォオオオオ!私を放っておいて何で他の女を殺そうとしているのかしらぁぁぁぁぁぁああああああっ!!!」 ヒイロ「なんだリリーナ!邪魔をするな!!」 リリーナ「うるさい!!!早く私を殺しにいらっしゃああああああああああああああい!!!」 ヒイロ(ぐっ、なんだこのプレッシャーは!殺される!!) 刹那「ヒイロ、彼女の事はお前に任せた。俺達はブルマを取りに行くぞ!」 ヒイロ「ちょ、刹那!俺をおいていくな!」 首輪ちゃん「ところがぎっちょん!!そう簡単に行かせる訳がねぇぇぇだろう!!!」 刹那「サーシェス!邪魔をするな!」 首輪ちゃん「おう、クルジスのガキかぁ!それに軍師気取りのクソガキ!さあ、一緒に戦争を楽しもうぜぇぇぇえええ!!!」 真宵「これは厄介ですね」(サーニャさん、もうしばらく一人で頑張ってください!) 646 :名無しさんなんだじぇ:2010/09/03(金) 20 26 38 ID eF7/jpbY レイ「水をくれ」 黒桐「まいどー」 レイ「…………」 黒桐「レイさん」 レイ「何だ」 黒桐「彼女達は一体何をしているんでしょうか」 レイ「騎馬戦だ」 黒桐「僕には世界びっくり人間ショーに見えるんですけど」 レイ「……騎馬戦だ」 黒桐「さっきから人が空飛んだり水着からピザが出たり騎馬組んだまま波乗りしたり気合いで銃弾撃ち落としたりしてるんですけど」 レイ「気にしたら負けだ」 黒桐「しかし!」 レイ「ここでの騎馬戦は人が空飛んだり水着からピザが出たり騎馬組んだまま波乗りしたり気合いで銃弾撃ち落としたりするのが普通なんだ」 黒桐「…………はぁ。なんか達観してますね」 レイ「狂ったもの勝ちだからな、ここは」 黒桐「そんなものですかね」 レイ「そんなものだ」 647 :名無しさんなんだじぇ:2010/09/03(金) 21 36 57 ID sw5.tDdU ロリブルマ「全くレディを裸にひん剥くなんてなに考えてるの?!シスターズ!念入りに殺しておきなさい!」 妹A「願ってもない事です、とミサカはロリブルマに感謝します」 妹B「やはり究極の愛はカニバズムですね、とミサカは口をぬぐいます」 妹C「その前に拘束した挙句●●●でしょう、とミサカは官能的な提案をします」 妹E「エンジョイ&エキサイティング!とミサカはルパンダイブします」 上条「不幸だあああああああああああああああああああ!」 ビリビリ! 妹ABCE「「「「ウワァーッ!とミサカは車田演出的に後方に吹っ飛んで気絶します」」」」 上条「く、くそ!この殺る気満々の電撃は…?!」 ビリビリ「あんた達ねぇ…わたしと同じ顔して犯る事が汚いのよ…」 上条「お前はアーチャーが抑えていたはず?!あ…(バーサーカーと戦うアーチャーを見る)なにやってんだよ、あいつは!?」 ビリビリ「ねぇ…あんたさぁ…まだあたしの全力、食らった事ないわよねぇ?」 上条「ま、待て!話せばわかる!」 ビリビリ「うっせー!タラシは黙ってろーっ!全力!超電磁砲ンンンンンン!!」 カッ! 上条「ひっ?!あ、あれ…?」 ビリビリ「あたしとあんたの戦いを邪魔されたくないのよ…引っこんでろ、化け物ども!」 D「おーっとぉ!御坂御琴の全力レールガンがアーチャー、ライダー、バーサーカーに炸裂! バーサーカーはワンキルですぐに立ち上がったが、アーチャーもライダーもグロッキーだぁぁぁぁ! アーニャ選手、ライダー選手が放り投げたおかげでかろうじて空中に難をのがれたが、もはや落下するのみ! これは決まったかぁ?!」 D「あ、解説いなかったか…張り合いが無い…。ともかく、フリーになったバーサーカーがなおも琴吹紬を狙う狙う狙う! さらにエツァリうずくまったぁー!さらに逃走ーっ!いや、向かった先には御坂御琴ぉーっ! どうやらラブアタックをかける模様です!」 海原「御坂さん!今まで言えなかった事を言います!すk…」 ビリビリ「引っこんでろっつってんだろ!ドサンピン!」 バシュゥゥゥゥゥゥ… D「逝ったぁぁぁぁぁぁ!エツァリ消滅!消滅です!上条当麻、一歩も動けずぅぅぅぅ!」 ビリビリ「あんたが正々堂々とあたしと戦わないからどんどん人が死ぬじゃないの! さぁ来なさいよ!全力でぶっ潰してあげるから!」 上条「そうか…分かったよ…なら全力でお前を止めてやる!」 D「御坂御琴と上条当麻のガチンコ開始ぃぃぃ!」 648 :名無しさんなんだじぇ:2010/09/03(金) 21 43 53 ID sw5.tDdU D「さらにバーサーカー&言峰氏が琴吹紬を蹂躙んんん!耐え忍ぶのがせいぜいかぁーっ!」 ロリブルマ「ふふーんだ。あとはあの無口が落ちてきたら試合終了ね。 そしたら死者スレに用はないから状況を放っておいて現世に戻ろうっと」 ひゅーん、どさっ! アーニャ「そうはいかない」 ロリブルマ「ちょ、ちょっと!上から降ってきてひっつかないでよ!レディの胸を直に触るなぁ!」 D「おーっとぉ、アーニャ選手、どう落下地点をずらしたのか!イリヤ騎の頭上に降ってきたぁーっ! 完全に組み伏せてます、アーニャ選手!それでも鉢巻きを取らないのはロリブルマに帰るタイミングをやらないためかぁーっ!」 アーニャ「ブルマー寄越せ」 ロリブルマ「そ、そんなこと出来るわけないでしょ?!それにこのブルマ、脱げなくなってるのよ!」 アーニャ「やっぱり。下調べの通り。結界の核もそこ」 ロリブルマ「!何故それを?!」 アーニャ「ブリタニア騎士の工作員としての実力を舐めないで」 刹那「実際に調べたのは俺だ」 真宵「情報を総確認して結論出したのはなにを隠そう私です!」 カマやん「ほう…貴様らの工作能力を舐めていたか…誰の差し金だ?」 ロリブルマ「どうでもいいでしょ!さっさと頭上のこの痴女を始末してよ!」 カマやん「興味はないな。そやつにブルマをどうこう出来る力はない。自力で排除してみろ」 ロリブルマ「げ、現世で殺してやるんだから!」 カマやん「どうとでも言え」 649 :名無しさんなんだじぇ:2010/09/03(金) 22 24 50 ID b8I0wJ.c ムギ「くっ……ここまでなの……?」 K「ふむ、他愛無い。 この分ならばわざわざ出番る事も無かったか。 さて、後は任せたぞバーサーカー。 私はアールストレイムから反則を取り試合を終了させるとしよう」 ?????「そうは行くか」 バシュン!! K「む……これは偽・螺旋剣。 アーチャーよ、何故まだ立っている」 アーチャー「私の投影した天覆う七つの円環(ロー・アイアス)が、たかが女子中学生のコイントス風情に撃ち抜かれるとでも思うか?」 ライダー「かなりシビアでしたけれどね。 さて、私はアーニャ援護に向かいます。 貴方は言峰とバーサーカーの足止めを」 アーチャー「ああ。足を止めるのはいいが―――」 「別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう?」 ライダー「ふ……大きく出ましたね。 では、任せましたよ」 K「……逃がしたか。 さて、暴徒の鎮圧を始めよう」 アーチャー「さて、鎮圧されるのはどちらかな?」 ムギ「私も……まだ終わっていません!」 バーサーカー「■■■■■■■■■■■■!!!」 650 :名無しさんなんだじぇ:2010/09/03(金) 23 03 39 ID FRKTbn0M みっちー「ああ、皆さん楽しそうですねぇ」 ヴァン「………」 みっちー「本当に楽しそうだ」 ヴァン「………」 みっちー「なのでこの拘束具を外してくれませんかねぇ?」 ヴァン(なんで俺がこいつの見張りしなきゃならねえんだ)
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See visionS / Fragments 5 『クライ』 -グラハム・エーカー- ◆ANI3oprwOY 男は失意の底にいた。 暗い穴の最奥で一人、蹲っていた。 ここは滅びた町の一角。 男の傍に壁はなく、頭上には灰色の空が広がっている。 しかしそこは紛れもなく底であり、暗闇の中だった。 少なくとも、男にとってはそうだった。 「…………」 男、グラハム・エーカーは暗い暗いその場所で止まっている。 希望を失くし、目からは輝きが消え、何も見えていない。 滅びた町も、ひび割れた地も、曇天の空も、服を濡らす雨の雫も。 何も認識していない。 虚空を眺め、制止する。 それが彼の現在だった。 「……………」 戦意が潰れている。 剣が折られている。 炎が、消えている。 「…………天江……」 呟く名は、守るべき者は、もういない。 残された残骸を握り締める事しか、許されない。 真っ赤に濡れたカチューシャ。 それはかつて守ると誓った命が染みこんだ、ただの残骸にすぎなかった。 「…………衣……」 呟くその名に、今は何の意志も込められていなかった。 まだ在った頃に、真摯に思った優しさは無い。 喪失の瞬間、張り裂けた悲哀すら無い。 なにも、何もない。 「…………」 失った後には、ただ虚空だけがあった。 空虚だけを、噛み締めていた。 故に、ここには何もなかった。 グラハム・エーカーはなにも見ていない。 暗い、暗い、穴の底にいた。 ◆ ◆ ◆ See visionS / Fragments 5 『クライ』 -グラハム・エーカー- ◆ ◆ ◆ 「…………誰だ」 かさり、と。 そのとき、穴の底に、小さく足音が響いた。 グラハムは、機械的にそれに問う。 何も見えない目前、気配がある。 背の低い小柄な体躯の、グラハムの守りたかった少女にどこか近しい。 「シスター、か」 少女だった。 インデックスと呼ばれた端末。 それが、失意の男の前に立つモノだった。 「何用……かな。今更、私に出来ることなど何もないが」 感情の篭らない、脱力した声でグラハムは聞く。 何もかもが億劫という様相を、既に隠し繕う気力もない。 「観察です。あなたの、正確には生存者の、記録を実行しています」 口を開いた少女から感情は読み取れなかった。 だからグラハムも、 「そうか」 とだけ、言った。 「…………」 「…………」 「…………」 「…………」 二人、何も言わない。 黙したままで、そこに留まり続ける。 瓦礫と砂利の丘に背を付けて座るグラハム。 崩落した町を背景に直立するインデックス。 両者、黙したまま、静かな時だけが流れていく。 二人、意志はなく。 二人、虚無を見つめ。 二人、何かをなくしたもの同士。 そういう意味で、彼らは非常に似通っているのかもしれない。 「君は……」 果たして、どれ位の沈黙が過ぎ去っただろうか。 永遠に続くかと思われた黙祷のようなそれを終わらせたのは、グラハムだった。 だがやはり何も見ぬままに、ただの気まぐれのように、彼は口を開いたに過ぎず。 「君は何故、ここにいる。ここでそんな、無駄なことをしているんだ」 証拠に、洩れだした言葉はあまりにも弱弱しい。 回答を求めない故に、言葉尻に疑問符すらつかない。 この男の常を知っているものにしてみれば、別人と疑うほどの脆弱だった。 「こんな私を見て、なんになるという」 滲む物は諦観一色。 「無駄なことだぞ」 「では逆に――」 その一色に、一石を投じるでなく、切り裂くでなく、端末は訥々と話す。 同じく脆弱な存在のまま、意志もなく、意義も無く。 それは空回り続けていた。 「あなたは何故、そこに留まるのですか」 お互いに、疑問符のつかない会話を展開する。 語尾を上げる力すら、両者にはなく、両者ともに返答を望まない。 けれど端末は、それを続けた。 「――データ参照。 グラハム・エーカーの行動パターンと性格特性(メンタルレベル)を二重に分析。 その重複結果。 あなたはここで脱落(リアイア)する行動方式を有してはおりません」 一切の感情が篭らない声。 断じて、信じていると言っている訳でも、勇気づけている訳でもありえない。 ただそうであると、断じているに過ぎなかった。 「シナリオパターンCを出展とする。 天江衣の死はグラハム・エーカーに対して極大の衝撃、ダメージとなります。それは事実。 しかしそれは、それまでのこと、あなたの心を折るには至らない」 絶対の計算式から導き出した答え。 『グラハム・エーカーはここで折れない』 もう一度立ち上がる。 それが用意されたシナリオなのだから。 「悲しみを怒りに転化する。守る意志を破壊する意志へと帰化する。 貴方はグラハム・エーカーという存在を捨てる」 それが法則、ロジカルな道理、結果であるはずなのだと。 足し算と引き算をして、解を述べただけ。 グラハム・エーカーはそういうものだ。 そう出来ている。構成されているという解法がある。 つまり、この場合(パターン)ならば、 守るべき者の死を乗り越え、怒りを胸に燃え上がらせて、庇護者を復讐者に変え立たせる状況。 「シナリオ通りであるならば、貴方は今までの自分を捨てて、仮面を身につける。 さながら――」 そう、それはさながら。 武士道と呼ばれた、否、呼ばれる未来という。 「本来のグラハム・エーカーが歩むはずだった。 歴史をなぞるように……」 キャストは限界まで収縮された。 故に外れようのない、計測されうるシナリオは正史の反復。 武士道を名とする男の誕生と。 「果てに貴方は、神に挑み、そして散る」 復讐者は遍く死と交差し、終焉するのが定めだった。 「なのに貴方はこの場所に留まっています」 しかし現実は違った。 グラハム・エーカーは散る以前に、立ち上がることすら成し遂げない。 ここで消沈するのは、喩え最終的な結果が同じだとしても、計算外であることは否めない。 用意されていたシナリオから外れていることは確かだった。 「さてね、何故だろうな」 男の反応はそっけない。 辿るはずだった未来を語られて、なのに響いていない。 刺激の無く、変化は見られなかった。 ただ、自嘲だけが、ある 「ああ確かに、私はここで倒れる人間ではない。 私自身、そう思っていたのだ」 それは自虐や諧謔ではなく。 本心からの言葉であった。 「立ち上がる理由など、幾らでも見つけられるだろう。 天江衣を殺された直後のように、怒りに任せて動くことも出来た。 天江衣と約束したように、市民を守るため義にしたがって戦う事も出来たはずだ……」 グラハムとは、その様なものであるという認識。 インデックスに説明される以前から、この男は知っていたのだろう。 知っていて尚、この状況に甘んじるわけとは即ち。 「しかし、な。不思議だな。立てないのだよ」 本人すら分からない。 知らない何かが在るという。 「火が……な」 「……火」 聞き返すでなく反復した端末へと、もう一度苦笑って。 グラハムは虚空に呟いた。 「火が、つかんのだ」 まるで「気分が乗らない」とでも言うような軽さ。 同時にどこまでも深い奈落の諦観と共に。 「彼女が死んで、そしてそれを確かめてより、何故だろうか分らないが……」 一度消えたそれは、取り返しがつかないのだと。 「火がな、無い。私の中で、当然のようにあったそれが、ない」 だから立てないのだと。 「理論と反します。意図も、掴めません」 理由になっていない。 計算式を覆す要素になっていない。 言い返す端末に、責めないでくれと、グラハムは漸く少女を見つめ。 「しかたないさ。私にも分らないことだ。知らないことだ」 肩をすくめて、空を仰ぐ。 「だが、これだけは言える」 そして小雨を降らせる曇り空を、瞳に浮かべて。 「彼女と出会う前ならば、私は何を失おうとも、こうはならなかったろう。 例えば君が先ほど言ったようなシナリオ、ああ良いな、心が震えたかもしれない。 しかし今は――なんと言えばいいのかな、そうだな……」 こう、締めくくった。 「この気持ちに……愛がない……」 魂の、欠如。 いつの間にか急速に、超大の存在となった少女は、グラハムの中心に在ったものとすり替わっていた。 まるで魔法のような、幻想のような、少女。 いずれにせよ失ったものは、其れほどまでに特別な存在だった。 グラハムだけでなく、この世界全てにとって、決して失われてはならない者だったのだと。 失われてはならない彼女を守ることこそ、己に課せられた役割だったのだと、失った今こそ、心から信じられるから。 己は間違いなく敗北したのだ、と。 再起は不可能なのだと、確信する。 「つまり――」 インデックスという端末はポツリと呟きながら、 グラハムの視線を追うように、空を仰いだ。 神のシナリオを歪ませるほど、彼女の存在は物語の中心にあったのでしょうか、と。 端末は、言外に、黙する。 意図せぬ黙祷が再び流れた。 今度はより決定的な。 何かを諦めるには十分すぎる冷たさだった。 「いずれにせよ」 再びグラハムがそれを、終わらせる。 今度は明確な、会話の末に向って言う。 「物語(シナリオ)はここまでだ」 彼女亡き今、変えられる筋書きは、グラハムの意志が折れるのを早めただけという。 ただそれだけのことだと。 「はい。その言葉に異論はありえません。終着(ピリオド)に変更は皆無。 第七回放送以後、このまま殺し合いが再開されなければ。 神が降り、彼の手によって地は燃え、殺し合いは強制的に終焉を迎えます。 それは変えられない事実です」 「だろうな」 グラハムは納得し、そして覆す気力も無い。 一貫した、諦観と悲哀。 諦観は己に、そして悲哀は、とどのつまり、 いまだに諦めることすらできない、あの少年に。 「何かが変わったとしても、終わりは何も変わらない」 「はい。肯定します」 グラハムは、憐れんでいる。 インデックスは、ただ肯定する。 「我々は、死ぬ」 「肯定します」 変えられない事実。 変わらない現実を、二人は、見つめていた。 「抵抗するものは僅か。そして勝ち目などない」 「肯定します」 意志のない二人。 確認作業に従事していた。 「悲劇で、幕は閉じる」 「……肯定します」 バッドエンド、確定しているそれを、彼らは語り終えた。 ここで会話は終わる。 終わるはずだった。 けれどグラハムは無意識に、ついでのようにもう一つだけ口にした。 特に聞く必要もない余計なこと。 答えのわかっている、無駄なことを。 「生きる意志を示す者は、阿良々木暦、一人だけ、か」 哀れにも止まれない、諦められなかった少年の、孤独な敗北。 その、最終確認において―― 「否定します」 一つだけ、またしても、齟齬が生じた。 「……なに?」 「もう一人」 曇り空から視線を切ったインデックスが、今、見据える先に。 「たった今、確認されました」 滅び廃れた地を踏みしめて、此方に歩いてくる、『二人分』の足音。 一人は少年、阿良々木暦。 「照合――」 そしてもう一人、少年に手を引かれたその姿。 おぼつかない足取りで、それでも確かに自分の足で、こちらに向かって歩いてくる少女。 立ち上がった者が、ここに、少なくとも、一人きりではなく―― 「阿良々木暦と、そして平沢憂。 現時点で、この二名に対し、生存の意志を確認できます」 一人は、二人になって、 とても僅かな、けれど確かな変化が今、ここに帰還する。 喩え目に見えぬほど、感じ取れぬほど僅かな差異であろうとも。 それは即ち、決められていたシナリオを食い違わせる。 変調の因子に他ならなかった。 【 Fragments 5 『クライ』 -End- 】 時系列順で読む Back See visionS / Fragments 4 『君の知らない物語』 -平沢憂- Next See visionS / Fragments 6 『あめふり』 -Index-Librorum-Prohibitorum Ⅱ- 投下順で読む Back See visionS / 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鳥バレしたァッー!orz 【戦闘フィールド設定――森林】 冷たい機械に囲まれた室内に、急速に風景が広がっていく。 視線を上へと傾ければ、そこには漆黒の宵闇と満天の星空。 寂寥感漂う冷たい夜空と、きらびやかな星々のコントラスト。 否応なしに、この殺し合いに巻き込まれた直後の空を思い出す。 嫌な思い出を掘り返されたような感触に、自然と視線が地上へと向いた。 新緑の色に生い茂るのは、見渡す限りの針葉樹林。 人間よりも巨大な幹と、目にも鮮やかな緑の葉。 青々とした木々の列を、しかし彼女は遥か上方から見下ろしていた。 【敵CPU機体設定――リーオー】 モニターに表示された名称は、獅子座の呼び名をもじったものか。 されど眼前に現れたそれは、百獣の王とは似ても似つかぬ、無骨な機械の人形だった。 とにかく、無骨なのだ。 いかにも軍用機だと言わんばかりの、カーキ一色に染められたボディ。 フレームにその形のまま着せただけの、装飾も何もない簡素な装甲。 表情も何もあったものじゃない、テレビ画面のようなガラスが張られただけの顔。 無骨を通りすぎてシンプル――最悪、適当と言っていいデザインだ。 全身で簡単な大量生産機であることをアピールする外観。そこには猛々しさも美しさも微塵もない。 されど、油断は禁物。 そんななりをしていても、やはりそれは兵器なのだから。 人よりのっぽな木々よりも、更に巨大な体躯を有した、身の丈15メートル以上の巨人なのだから。 【プレイヤー機体設定――】 並べられたモニターの1つに、自機の情報が提示される。 それこそがこの部屋を内包した外装であり、彼女が駆るもう1機の巨人の姿。 木々を踏み砕き顕現するのは、煉瓦と漆黒に染まった鋼鉄の魔神。 触れる物全てに牙を剥かんばかりの刺々しい装甲は、目の前のリーオーとは大違いだ。 大きく開いた背後の緋色は、さながら伝承の悪魔の翼。 左手からだらりと垂れ下がる刃の列は、雄々しく荒々しき竜族の尾か。 緑に輝く双眸が、眼前の敵を睨み付ける。 騎士のごとき、堂々たる偉容と。 邪神のごとき、禍々しき異様。 月明と星明かりに照らされし巨人は。 少女の操りし凶暴な魔剣は。 【――ガンダムエピオン】 その名はエピオン。 OZ-13MS。 次代の扉を開く者。 かのトレーズ・クシュリナーダが設計した、最も気高き決闘用モビルスーツ。 そしてミリアルド・ピースクラフトが操り、全地球人類を恐怖させた、最凶最悪のガンダムである。 ◆ 「よ、……とっ」 随所に呟きを織り混ぜながら、たどたどしい手付きでレバーを動かす。 モニター上で視線を右往左往させながら、慌ただしくボタンを操作する。 地図上に憩いの館と表記されたその建物の一角には、ロボットゲーム「戦場の絆」のシートに座る、琴吹紬の姿があった。 何故このようなことになったのか。今から追って説明しよう。 確かにあの円形闘技場において、ティータイムを装った毒殺作戦は成功した。 唯を取り逃がしてしまったものの、結果として船井と美穂子の2名を殺害することはできた。 だが、そこで問題が生じた。 どさくさの中で、罠に使用したティーカップが、残らず粉々に割れてしまったのだ。 これでは作戦を繰り返すことができない。 ポットだけではお茶は飲めない。 残り2人分のノルマを満たすために、代わりのカップを探さなければ、と思い、たどり着いたのがこの憩いの館。 そうしてカップを探すうちに、行き着いたのがこのゲームの存在だ。 なんでも、このゲームの本番モードで勝利すれば、そのまま敗者を死に至らしめることができるらしい。 身体的に強靭でない紬にとっては、まさに願ったり叶ったりの代物だ。 とはいえ、自分にゲームの才がなかった場合のことを考えると、いきなり本番モードに挑んで返り討ちに遭うのはまずい。 そこでまずはCPU相手に練習モードで勝負を挑み、自分がこのゲームを使いこなすに足る器か否かを確かめようとし、今に至る。 そして現在の琴吹紬は、当初の不安は杞憂であったと、徐々に認識しつつある。 初めにこのシートに座った時には、あまりのボタンの数に面食らったものだった。 おまけに機体のチョイスもよろしくない。 見ればこのガンダムエピオンという機体は、一切の射撃武器を有していないのだという。 格闘戦専用。 飛び道具なし。 何も考えずに飛び込むと、近づく前に蜂の巣にされる危険を伴う。 諸刃の剣。 素人にはお勧めできない。 そんな機体をいきなり初体験の人間に与えるなんてのは、ぶっちゃけいじめも同然じゃなかろうか。 そんなことを考えていたが、実際に動かしてみると、それらの不安も吹き飛んだ。 まず、エピオンは速い。 並の銃器では狙いもつけられない、圧倒的な加速力。 当たらなければどうということはない、といったところだろうか。 実際この練習モードが始まってから、彼女は敵リーオーのマシンガンを、全て難なく完全回避してみせているのだ。 そしてその能力を使いこなせるだけの、操縦技術。 どういう理屈かは知らないが、初めて動かすコックピットにもかかわらず、身体が妙にスムーズに動く。 たどたどしい手つきではあるものの、まるで自分の手足を扱うかのようだ。 どこをどうすればどう動くのか、いやに正確に理解できる。 それだけではない。読めるのは自機のみならず、敵機の挙動もだ。 相手の情報、次の行動予測……敵の全てが手に取るように分かる。 ゲーム開始時にメインモニターに浮かんだ文字――「SYSTEM EPYON」とやらの恩恵だろうか。 「そろそろ、攻めてみようかしら……」 地上からのマシンガンを猛烈な速度で回避しながら、ひどくあっさりとした口調で紬が呟く。 生きるための術――機体の移動方法は、これまでの回避行動で大体掴めた。 次は勝利するための術――攻撃方法を練習する番だ。 右手の大出力ビームソード、左手の高熱鞭ヒートロッド。そして飛行形態時のランディング・ギアとして使われるクロー。 エピオンの武装は少ない。おまけに遠距離戦に対応できるものがない。 これらの武器を最大限に活かせなければ、寿命を延ばすことはできても勝ち残ることはできない。 【――CAUTION!】 と。 その時。 「あら……?」 不意に、モニターの中央に現れる文字。 突然表示されたレッドシグナルが、パイロットたる紬に警戒を促している。 【挑戦者が現れました。本番モードの対人戦へと移行します】 程なくして現れたのは新たな文章。 同時に、眼下のリーオーが消滅する。 突然の対人戦――これが説明書に記載されていた、乱入システムというものなのだろうか。 どこか別の建物で、何者かが同じゲームをプレイしている。 あるいはこの建物にやって来て、別のシートに座っているのかもしれないが。 「ようやく来た……本番モード」 そして紬の興味を引く、もう1つの記述。 待ちわびていた存在への期待感へと、覚悟しなければならないという緊張感。 本番モード――すなわち、金を賭けた真剣勝負。 勝利者はペリカを入手することができ、敗北者は逆にペリカを支払わなければならない。 しかし、所持金ゼロの者がコックピットのシートについた瞬間、賭けの対象は命へと変わる。 支払いのできなくなった者は、その場で首輪を爆破されてしまうのだ。 もちろん自分は一文無し。恐らくは相手もそうだろう。 この島にペリカを入手できる手段がそうそうあるとは限らないし、こんな短時間でたどり着ける可能性はもっと低い。 CPU相手に本番モードで勝負したなら話は別だが、そんなハイリスクローリターンな勝負など誰がするだろうか。 【対戦相手機体――Oガンダム】 やがて表示される、対戦相手の機体名。 自分の乗っている機体と同じ、ガンダムという名称が目についた。 「ゼロ、ガンダム……?」 いや、これはオーガンダムと読むのか。 口にした直後に、内心で訂正する。 同時に目の前に現れたのは新たな巨人。 これがOガンダムとやらか。なるほど、ガンダムとはいわばブランド名で、こういう顔をした機体の総称だったのか。 自らの楽器知識に照らし合わせながら、対峙する相手を分析する。 彼我の共通点は少ない。 こちらが黒と煉瓦色の機体であるのに対し、敵は白とグレーの機体。 エピオンのような過剰な装飾もほとんどなく、リーオーよりはましといったくらいの、極めてシンプルなデザインにまとまっている。 唯一似通っているのが前述の顔だ。 ツインアイに独特なフェイスカバー、そしてV字型のアンテナ。 人間の思考とは単純なもので、たったそれだけの共通点でも、2つの機体が似ていると錯覚してしまう。 否、これも素人目に見たからこその感想なのだろうか。 「……っと、いつまでも考えてる場合じゃないわね」 思考を切り替える。 目の前では乱入者たるOガンダムが、油断なく右手のライフルを構えている。 既に勝負は始まっているのだ。棒立ちで乱れ撃ちにされるわけにはいかない。 ぶぉん、と音を立て、ビームソードを抜刀。 蛍光色の巨大なエネルギー刃が、夜の暗黒を切り裂き発光。 腰部から伸びた動力ケーブルから、莫大な出力が注ぎ込まれているのが分かる。 「行くわよ――ガンダムエピオン」 ここがいわゆる正念場。 命と命の奪い合い。 勝てば殺せる、負ければ死ぬ。 真剣な面持ちでモニターを睨み、少女の口が呟いた。 ◆ 轟。 大気を震わす爆音と振動。 ざわざわと枝葉をかき鳴らすのは、宵闇に浮かぶ蒼炎と風圧。 緋色の悪魔が虚空を裂き、猛烈な加速をもって突撃する。 巨大な翼が空を切った。風が鋭い悲鳴を上げた。 炎と風とイオン臭を伴い、ガンダムエピオンが標的へと殺到。 されど。 先手を取ったのはエピオンにあらず。 悪魔の騎士は少数派。あらゆる世界の全てのモビルスーツが、接近しなければ攻撃できないというわけではない。 がしゃ、と構えられるは黒光りするライフル。 銃身を握り締めるのは、白と灰の巨人の右手。 トリガー・プル。 GNライフル・ファイア。 先に攻撃したのはOガンダムの方だ。 ばしゅう、と独特な音を上げ、地上から舞い上がる彗星が宙へと向かう。 「!」 されど。 先手を取ることは、先にダメージを与えることと直結しない。 先に手を出したからといって、確実に命中する保障があるわけではない。 迫りくるビームを回避する。 最低限の動作で鮮やかに、灼熱の魔弾を身をよじってかわす。 素人技ではない。一瞬、面食らったようにOガンダムが沈黙した。 しかし、それもいつまでも続くわけではない。 敵がそれなりの手練れだというのなら、手練れなりに対処するまでのこと。 そう言わんばかりに、再度射撃態勢へと入る。 発射、発射、発射。 2発目、3発目、4発目。 最初にかわされた分を除けば、たっぷり7発分もの流星群。 当然、その程度で当たるわけがない。 カット、カット、ついでにターン。 ガンダムエピオンが発揮するのは、目まぐるしいまでの空中軌道。 さながら暗雲の中を稲妻が駆け抜けたかのような――そう錯覚させるほどのジグザグ・カット。 この程度は当たらない。フェイントでもかけない限りは、あの高速移動を捉えるのは難しい。 故に、これはあくまでも布石だ。 態勢を崩した瞬間に、GNビームサーベルを突き立てるための牽制。 「それでも……!」 だが――そんなことは百も承知! 敵の射撃はあくまで牽制、本命は直後のビームサーベル! エピオンシステムの未来演算は、その可能性すらも予測している! 瞬間、激突。 ほとばしるのは激烈なスパーク。 繰り出されたGNビームサーベルと、強引に突き出したビームソードの真っ向衝突。 ばちばちと音を立て駆け巡る光が、深夜の森を真昼色に染めた。 大出力のエネルギー同士が、大気の歪みすらも伴って猛反発。 激突を制したのは――やはりエピオン! 機体動力から直接供給される潤贅なエネルギー量は、そのまま実剣でいうところの、切れ味と重量に直結する。 そんじょそこらのなまくらでは、まともに打ち合うこともかなわぬ巨大剣だ。 押し負けたOガンダムが吹き飛ばされる。 痛烈な圧力をその身に受け、ずるずると両足を大地に滑らせる。 足元に立ち並ぶ針葉樹が、衝撃でばたばたと薙ぎ倒された。 刹那、猛追。 この程度では攻め手を緩めない。 なおもバーニアの炎を噴かせ、殺人級の超加速。 それを実現できるのは、Gの伴わぬバーチャルゲーム故か。 それとも原型となった機体そのものが、半端なパイロットの命など顧みぬ、狂った設計に基づくモンスター・マシンであるが故か。 地表すれすれを滑るように疾駆。立ちはだかる木々は薙ぎ倒し進む。 大きく開いていた距離が、僅か一瞬でゼロ距離へと縮小。 「ここっ!」 びゅん、とビームソードがしなった。 雷鳴と炎熱と閃光を纏う、神話の大剣が掲げられる。 高々と持ち上げられた凶刃が、勢いよくOガンダムへと振り下ろされる。 「惜しいっ……!」 紬の顔がしかめられた。 ソードの斬撃は空振りに終わった。 標的を見失った灼熱の魔剣は、眼下の森林へと叩きつけられる。 じゅっ、と。 まるで牛肉を鉄板にでも敷いたかのように。 呆気ない音を立てながら、十数本の樹木が一瞬で蒸発。 横に逸れたわけではない。 背後に引いても剣は届く。 防御しても弾き飛ばせる。 すなわち、白の巨人の逃げ場所は――上。 それはさながらオーロラの翼。 それは月光浴びる蝶のごとく。 光の粒子を双翼となし、天高く舞い上がらんとする巨人がある。 新緑の光翼を羽ばたかせ、GNビームライフルを突きつけるガンダムの姿。 されど――それも想定の範囲内! 敵機の持つ装備の中に、真っ向からエピオンのビームソードを受け止められるものはない。 ならば取るべきは防御ではなく回避。 そして間合いを取り、GNビームライフルで一方的に攻撃する――それがOガンダムの思惑。 万が一かわされた時の相手の動向は、既にエピオンシステムが予測済み。 そして対処法さえも、とっくの昔に構築済みだ。 ――脚部にヒートロッドを放て! 「これねっ!」 システムの指示に従い、左腕部を振り抜く。 漆黒の竜鱗に覆われた尾が、唸りを上げて敵機へ殺到。 ぐわん、と咆哮する音は、虚空をぶち抜くソニックブームか。 ぎゅる、と捕縛。 さながら罪人の足枷のごとく。 地上から伸びた黒の竜蛇が、白の巨人の右足を捕らえた。 超高熱の刃の鞭――ヒートロッド。 その発熱機構をオフにし、投げ縄の要領で巻きつける。 「ええいっ!」 気合一声。 剛腕一閃。 振りかぶる左腕の動作に合わせ、巨体を引きずり回すヒートロッド。 総重量53.4トンの巨体が、無様に宙を舞い大地へとダイブ。 ずぅん、と鳴り響く地響きは、びりびりと風景すらも振動させた。 踏み潰された樹木がへし折れ、もうもうと立ち込めるのは土煙。 またもエピオンが読み勝った。 紛争根絶を謳うガンダム――その始祖に当たる栄誉の機体が、みっともなく仰向けに倒れていた。 「すごい、すごいわ! 敵の動きが見える! エピオンの言うとおりにしただけで、全部上手くいってる!」 口元を喜色に歪め、頬をほんのりと朱色に染めて。 興奮を抑えきれぬ様子で紬が叫んだ。 このエピオンは完璧だ。 射撃武器のハンデなどものともせずに、敵機をこうも見事に圧倒している。 エピオンシステムの未来予知が、戦況を完全に支配している。 いかな戦術も戦略も、この無敵の先読みの前では意味をなさない。 全能の軍神――あるいは、絶対の魔王か。 「さぁ――これでとどめよっ!」 刹那、飛翔。 舞い上がるガンダムエピオンの巨体。 緑碧の光剣を月へと掲げ、深紅の翼を星空に広げ。 白光を全身に受け煌く漆黒の悪魔が、勢いよくOガンダム目掛け急降下。 空気を切り裂き。 樹木を揺るがし。 裂音さえも置き去りにして。 音速で飛来する魔性の刃が、白と灰の巨人を貫かんと肉迫。 これで勝負が決まる。 相手はこれで確実に死ぬ。 エピオンに不可能なんてない。 「見えるわ! 私の勝利と、貴方が死んでいく姿がッ!」 その、瞬間。 ――破局は呆気なく訪れた。 「……えっ……?」 何が何だか分からなかった。 否、事実としては捉えていた。 できなかったのは、それを真実として認めることだ。 Oガンダムが死んでいない。 コックピットを狙ったはずの一撃が、しかしかわされ左肩を潰す程度に留まっている。 瞬間、光が吼えた。 桃色の閃光が引き抜かれた。 呆然とする紬の目に浮かぶのは、エピオンのビームソードではなく、OガンダムのGNビームサーベル。 桜の煌きが広がっていく。 視界いっぱいがピンクに満ちる。 コックピットのモニター全てが、ビームサーベルの光に塗り潰される。 【YOU LOSE】 表示されたのは絶望の宣告。 貴方はコックピットを破壊されました。 この戦いは貴方の負けです。 ペリカの提示が確認できませんでした。 これより首輪を爆破します。 「っ……い、嫌っ……」 ぴ、ぴ、ぴ、ぴ、ぴ。 鳴り響く電子音と点滅するランプ。 ペナルティたる爆弾首輪――その発破までのカウントダウン。 「いや、いや、いや、いやぁぁぁぁっ!」 悲鳴と共に両手を伸ばす。 がちゃがちゃ、がちゃがちゃと音が鳴る。 全てのモニターがブラックアウトした、薄暗い操縦席の中で。 涙を流す琴吹紬が、首輪を外さんともがき足掻く。 「やだ、やなのぉっ! 外れて! お願い、外れてよぉぉっ!」 早く、早く首輪を外さなければ! このままでは首輪が爆発する! 最初に犠牲になったあの人のように、首から上が吹き飛んでしまう! 死ぬ! 死ぬ! 死んでしまう! このままでは私は死んでしまう! 外れろ! 外れてくれ! いやだ、私はまだ死にたくない! 何で外れてくれないんだ!? 何で!? 何で!? 何で!? 何で!? 「いやあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」 どかん、と。 悲痛な叫びも虚しく、金属の首輪は爆発した。 首から先が宙を舞い、ごとりと音を立ててコンソールに落ちる。 涙で濡れた虚ろな瞳が、何も映らないモニターを見つめていた。 【琴吹紬@けいおん! 死亡確―――】 「――はっ!?」 叫びと共に、我に返る。 荒い息をあげながら、しばしそのまま沈黙する。 やがて、記憶が蘇ってきた。 未だ混乱する意識の淵から、じわじわと恐怖が蘇ってきた。 じんわりと視界が水気で滲む。 がたがたと両の肩が震える。 びくびくと指先が痙攣する。 ばくばくと心臓が鼓動する。 涙やら汗やら鼻水やら、あらゆる液体が全身から噴き出した。 「今の、は……!?」 震える指先で首元をなぞる。 まだちぎれていない。首輪すらも健在だ。 であれば、今のは何だったのだ。 今の今まで見ていたのは幻だったのか。 ――ビームソードは推奨しない。かわされてサーベルの反撃を食らい、死ぬ。 システムが告げるのは簡素な制止。 目の前のモニターに視線を向ければ、未だエピオンは空中にいた。 地上にはOガンダムが倒れていて、ゆっくりと上体を起こしていた。 現実には何も起きていない。 エピオンはまだ突撃していなかった。 Oガンダムはまだ反撃していなかった。 決着はまだ着いていなかった。 紬はまだ死んでいなかった。 「どういう、ことなの……!?」 理解不能。 解読不能。 自分は夢を見ていたというのか。 あれほどにリアルで鮮明な夢を、一瞬のうちに見たというのか。 有り得ない。 有り得るはずがない。 そんな夢を見る理由がない。 であれば、これは一体何だ。 今なお五体を寒気に震わせる、あの不可解な幻影は―― 「……っ!」 瞬間、耳を打つ音。 これまで音楽と共に生きてきた半生の中でも、聞いたことのない不可解な音。 Oガンダムの音だ。 GN粒子の光の翼が、風を掴んで羽ばたいた音だ。 紬が空中で呆けているうちに、敵機が目と鼻の先まで接近してきたのだ。 「ひっ……いやああぁぁぁぁっ!」 恐慌と共に、ソードを振るう。 炎熱伴いし必殺の重剣が、しかし虚しく空を薙ぐ。 当然だ。 そんなお粗末な振りの剣が、そう簡単に当たるものか。 身をよじり回避したOガンダムが、すれ違いざまに引き金を引く。 GNビームライフルがバックパックを撃ち抜き、コックピットごと爆発させる。 再び機体を撃墜させられ、首輪の爆破と共に死ぬ自分。 「何なの!? 何なのよこれは!?」 それでも自分は死んでいない。 ただ自分が死ぬイメージを、視覚と聴覚と触覚で体感させられただけ。 恐怖に揺れる叫びと共に、新たなイメージが沸き上がってくる。 背後からのGN粒子の風圧に煽られ、姿勢を崩した隙に刺されるエピオン。 頭部をライフルで破壊され、何が何だか分からぬうちに蜂の巣にされるエピオン。 機体にがっしりと組みつかれ、自爆装置に巻き込まれ消滅するエピオン。 その度に首輪が爆発する。 その度に琴吹紬が死ぬ。 見たくもない死の光景が、何度も何度も再生される。 「いや、いやよ! 私は死にたくない! こんなの見たくなんてない!」 頭を抱える紬の首が、またも爆破され吹き飛んだ。 肉をちぎられ骨を砕かれ、血を抜き取られていく痛みと苦しみが、何度も何度も再生された。 ――お前の敵は何だ? システムが語りかけてくる。 今や無限の軍勢と化したOガンダムの襲撃に混じり、脳裏に浮かぶメッセージがある。 それはなぶり殺しにされる度、何度も何度も蘇る悪魔の声。 ――お前がこの力で倒したい敵は何だ? これはエピオンが見せているのか。 この無限の敗北と死に様は、ガンダムエピオンのシステムが見せているのか。 勝利を見せていたはずのエピオンが。 敗北などないはずだったエピオンが。 もはや勝利の方程式は見えない。 そこまで意識が及ばない。 敗北を招く失敗例ばかりに、ひたすらに意識が向いてしまう。 ――見せてみろ、お前の敵の姿を。 瞬間、闇の中に顔が浮かぶ。 敵のイメージを切り裂いて、無数の顔が浮かび上がってくる。 分厚い唇が特徴的な男――違う! 船井さんはもう殺した! 帽子を目深に被った年下の少女――違う! 撫子ちゃんは救えなかった! ギターを構え、にこにこと笑う茶髪の友人――違う! 唯ちゃんごときの話をしてるんじゃない! 私の敵は誰!? 一体私は、今誰と戦ってるの!? 目の前にいるはずのOガンダム!? 私を惑わすガンダムエピオン!? もう何も見えない! 何も分からない! 誰が敵で、誰が味方か、誰がどこにいるのかすらも分からない! 敵はどこ!? 敵は誰なの!? 私の敵は誰なのよ――――――――――――!? ――凶がれ。 「!」 不意に。 声が、響いた。 視覚も聴覚も働かなくなった闇の中、凛と響く声があった。 ――凶がれ。 この囁きを知っている。 この殺気を覚えている。 闇を切り裂き現れるのは、忌々しいほどに美しい少女。 ――凶がれ。 優雅で鮮やかな紫の髪。 妬ましいほどに整ったスタイル。 引き裂きたいほどに白い肌。 虚ろな気配を宿した灼眼と、吐き気を催すほどの嫌な笑顔。 「浅上、藤乃ッ……!」 そうだ。 こいつがいた。 ――凶がれ。 全てはこいつのせいだった。 守ろうとしていた千石撫子も、こいつのせいで死んでしまった。 助けてくれた人達も、全てこいつに殺されてしまった。 こいつのせいで制服姿を怖れ、まともな思考能力を奪われてしまった。 こいつのせいで平沢唯達に捕まり、危うく殺されるところだった。 ――凶がれ。 許さない。 こいつだけは許しておけない。 こいつは私の手で決着をつける。 いずれ皆等しく死ぬ宿命なら、こいつの息の根は私が止める。 いつの間にかエピオンの剣は、私自身の手に握られていた。 光の剣を強く握り、闇夜に歩みを進めていく。 ――凶がれ。 右の瞳は右回転。 左の瞳は左回転。 赤い光と緑の光、2つ合わせて二重螺旋。 皆を殺した歪曲の念力を、押し退け掻き分け薙ぎ払って進む。 私の敵は浅上藤乃。 エピオンが倒す敵は浅上藤乃。 魔眼を輝かす少女の姿が、白と灰色の巨人に重なる。 剣を携える私の姿が、黒と煉瓦色の悪魔に重なる。 私の敵は浅上藤乃。 お前は私がこの手で殺す。 他の全ても私が殺す。 高見の見物を決め込んでいる、帝愛なる連中も私が殺す。 「私の敵は……私の命を奪う者と、私の命を弄ぶ者……」 エピオンシステムの闇が晴れた。 漆黒に一筋の白光が差した。 未来が見える。 望む未来がそこに見える。 学校の友達を殺す未来。 サングラスの髭面を殺す未来。 小さな白服の女の子を殺す未来。 そして――浅上藤乃を殺す未来。 殺してやる。 殺してやる。 殺してやる。 「私が――」 お前を殺してやる。 光の前に立ちはだかる女に、光の剣を突き立てた。 「……ぅわあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――ッッッ!!!」 肺の空気全てを吐き出すような、猛烈な絶叫がコックピットに響いた。 ◆ 悪魔の瞳に力が戻る。 ガンダムエピオンが再起動する。 さながら光の天使のごときOガンダムの両腕に、真っ向から掴みかかっていた。 これまで動きを止めていた機体が、突如として反撃に出たのだ。 ぎりぎりと装甲の擦れる音。 みしみしと関節の軋む音。 押し返す勢いを味方につけ、漆黒と深紅の顔面が迫る。 瞳が、光った。 Oガンダムのメインカメラ全体に、光り輝く魔眼が映し出された。 さながら冥府の魔獣のような。 地獄の淵から覗くような。 ただ光っているだけのはずのツインアイに、底知れぬ気配が宿される。 そこに怖れを抱いたのか。 驚き竦み上がったのか。 膠着していたOガンダムが、瞬間押し返され始めた。 轟然と唸りを上げるエンジン。 緋色の翼を羽ばたかせる悪魔は、今にも食らいつかんばかりに巨人を睨む。 ずぅん、と振動と衝撃を感じた。 おびただしい量の土煙が上がった。 「ァアアアア―――ッ!」 されどエピオンは止まらない。 狂った雄叫びを上げる紬に呼応し、尚もOガンダムの身体を押す。 土煙は砂嵐へと変わった。 一陣の突風が森林んえぐった。 もつれ合う2体のガンダムが、爆音と共に大地を滑る。 灰色の腕がビームライフルを構える――させない! 撃たれればまた私が死ぬ! 左腕のエピオンクローが、黒き銃身を弾き飛ばした。 白の左手がビームサーベルへと伸びる――やらせない! コックピットを突かれれば私が死ぬ! ビームソードを左手に突き刺し、サーベルを掴む前に粉砕した。 がりがりと刃が地面を削る。 Oガンダムの手のひらを串刺しにした光剣が、深々と大地に谷間を刻む。 「うああぁぁぁぁッ!」 必死で操縦幹を操った。 ひたすら両腕を繰り出した。 鳥の爪のごとき黄金のクローで、一心不乱に敵を殴った。 殺す。 殺す。 殺してやる。 これ以上反撃なんてさせない。反撃を許せば自分が死ぬ。 黒の悪魔が装甲を穿ち、白の巨人を汚していく。 闇に映える白色の装甲が、みるみるうちに砕け散っていく。 ぐぐ、と顔面が持ち上がった。 がん、と左手で地面に叩きつけた。 鷲掴みの姿勢を取るエピオンの手が、ぐいぐいとOガンダムの頭部を地面に押しつける。 エピオンクローが顔面に食い込み、ばりんとメインカメラが砕けた。 「ァァ、ァァ! ああぁっ!!」 びゅん、と振り上がったのは閃光の魔剣。 極大の熱量と切れ味を内包した、ビームソードが牙を剥く。 馬乗りの態勢になったエピオンから、Oガンダム目掛けて怒濤の乱撃。 ざくり、ざくり、ざくり。 刺す、刺す、刺す。 右腕が本体と別れを告げた。 左肩の装甲が砕け飛んだ。 胸元が音を立てて蒸発した。 見るも無惨ななぶり殺し。 果たして誰に理解できるだろう。 このガンダムエピオンという名のモビルスーツが、決闘用機として造られた機体であることを。 気高きトレーズ・クシュリナーダの理想が、この機体に込められているということを。 されど、エピオンは敗者のための剣。 盲目的に勝利を求める愚か者には、悪魔は厳しく、残酷でありすぎた。 「ぅぅうううああああああぁぁぁぁぁ―――ッ!!!」 遂にコックピットが潰される。 腹部に魔剣が突き刺される。 光の剣は一太刀で巨人の身体を貫き、深々と鋼の臓腑をえぐった。 ぐるり、ぐるりと掻き回す。 憎悪と敵意と殺意を込めて。 仮想空間の操縦席が、閃光と炎熱と雷鳴でぐちゃぐちゃになる。 それでようやく限界を超えたのか。 猛烈な風圧と炎熱を伴い、敵機は爆裂、四散した。 爆炎は瞬く間に新緑を巻き込み、針葉樹林を埋め尽くす。 漏れ出す緑の光の粒は、破壊されたGNドライヴの吐き出す粒子か。 ぱちぱちと火の粉が爆ぜた。 炎色に染まる夜空を、無数のGNの蛍が舞った。 光と熱の支配する地に、立っている機体はただ1つ。 「……っくくく……あははははは……」 乾いた笑いが響き渡った。 少女の口を突く笑いだった。 琴吹紬が我が身を預けるのは、灼熱と閃光に照らされる魔神。 英雄が勝ち名乗りを上げるように、光の剣を高々と上げる。 野獣が満月に吼えるように、顔を持ち上げ目を瞬かせる。 「やっぱりそうよ……私のエピオンは最強なのよ……この力があれば誰にも負けない……浅上藤乃にだって負けはしないわ……」 もういらない。 何もいらない。 青酸カリも必要ない。このエピオンの力さえあればいい。 どれほどの身体的実力差があろうと、ゲームの世界では関係ない。 あの魔眼の使い手であろうと、この力の前では等しく無力だ。 自分とエピオンさえあれば、どんな敵とでも戦える。 何であろうと、このエピオンの剣が薙ぎ払う。 「あはははははは……」 火と蛍の海で少女が笑う。 赤と緑の螺旋の中で、漆黒と煉瓦の悪魔が笑う。 【YOU WIN】 メインモニターに浮かぶ文字すらも、少女の目には浮かんでいないようだった。 【○○○○@×××× 死亡確認】 【C-3/憩いの館(地下ゲーセン内)/1日目/昼】 【琴吹紬@けいおん!】 [状態]:ゼロシステム暴走、狂喜 [服装]:ブラウス、スカート [装備]:なし [道具]:基本支給品一式、忍びの緊急脱出装置@戦国BASARA×2、軽音楽部のティーセット、シアン化カルシウム入りスティックシュガー×10 桜が丘高校女子制服(血濡れ) 、薬局から持ってきた薬品多数@現地調達 [思考] 基本:この島にいる皆を殺して生き返らせる事によって救う 0:私の命を狙う者……そして私の命を弄ぶ者……全てが私の敵! 1:全ての参加者をエピオンで殺す。 2:浅上藤乃をエピオンで殺す。 3:いずれ唯もエピオンで殺す。 4:主催者達もエピオンで殺す。 5:誰にも勿論殺されたくない。 6:阿良々木暦に会ったら、撫子ちゃんの事を伝えようかしら。 [備考] ※強い憎悪により、一時的に浅上藤乃に対するトラウマを克服しました ※名簿のカタカナ表記名前のみ記載または不可解な名前の参加者を警戒しています ※E-3北部~E-4北部間の何処かに千石 撫子の死体があり、すぐそばに彼女のディパック(基本セット、ランダム支給品1~3入り)が落ちています。 ※名簿のカタカナ表記名前のみ記載または不可解な名前の参加者を警戒しています ※眼帯の女(ライダー)の外見情報を得ました ※殺し合いにプロのロボットパイロットが参加している可能性に気づいていません ※ゼロシステムの影響で暴走状態に陥りました。戦闘に関係すること以外に対する思考力が著しく欠如しています。 また、ガンダムエピオンがあれば絶対に誰にも負けないと思っています。 ※「戦場の絆」の自機が毎回ランダムで変わることは、半ば忘れかけています 【エピオンシステム@新機動戦記ガンダムW】 ガンダムエピオンのコックピットシステム。 近年の資料では、原作中でモニターに表示された「SYSTEM-EPYON」の表示から、便宜上このように呼称されている。 (対してウイングガンダムゼロのゼロシステム起動時には、「SYSTEM-ZERO」と表示されている) 根幹にはゼロシステムに酷似した装置が組み込まれており、文字通り乗り手に未来を見せる機能を有している。 全ての未来は乗り手の脳に主観として認識させるようになっており、 相当精神力の優れた者でなければ、死の可能性のビジョンに対する恐怖などから、暴走を招く可能性を孕んでいる。 投下は以上です。 とりあえずエピオンに乗る人は誰でも融通は利いたのですが、 どうも「ガンダムVSガンダム」を見る限り、戦場の絆ではゼロシステムが再現されないようなので、泣く泣くボツに。 Oガンダム弱すぎじゃね? と思われるかもしれませんが、まぁ、ロボットに乗ったことのない人が相手ということでw
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731 :名無しさんなんだじぇ:2011/12/10(土) 18 42 02 ID lsFTCLuA とーか「さぁ!バリバリ歓迎会の準備をしますわよ!」 一同「おー」 部長「田井中さん、力あるのね。羨ましいわ」 律「えぇ、ドラムは体力ないと勤まらないので」 部長「でもキャスターさん激しいんでしょ?田井中さん身体もつ?」 律「あぁ見えても加減してくれますから…あ、律でいいですよ」 部長「ありがとう律ちゃん。私の事も久って呼んでね」 律「あはは!久さん気さくでいいですね」 美穂子「田井中さん、ごめんなさい、これあっちにお願い出来ないかしら?」 律「あ、はーい。重っ?!よくこんなの持てますね」 美穂子「田井中さんほどじゃないわ」 律「いやぁあたしよりムギ…琴吹の方がよっぽどバカ力で…」 美穂子「そんな畏まらないで。私達仲間でしょ?」 律「あ、はい!」 唯「ねーねーあずにゃん。さっきからりっちゃん、みほみほと竹井さんの間行ったり来たりしてるよ?」 あずにゃん「あー言われてみれば…まぁなにかあるわけでもないみたいですし」 池田「キャプテンがなにも無いように牽制してるんだし」 唯「え、どーゆーこと?」 池田「清澄のスケコマシがあんたたちのとこのドラマーを狙ってるってことだし」 唯「?」 あずにゃん「うわぁ…命知らずですね、あの人…バレたらキャスターさんになんかされますよ…」 池田「どーせそれもスリリングでいいとか思ってるし…」 732 :名無しさんなんだじぇ:2011/12/10(土) 18 47 03 ID lsFTCLuA とーか「あ、そこはこうしたほうがよろしくてよ!そっちはこう!」 筆頭「なぁ…さっきから予定にないとこ拡張してねぇか?」 小十郎「収拾がついてませんね。かといって彼女の立場を考えると止めるわけにも行かず…」 筆頭「まぁ気が済むようにやるまでだがよぅ…こりゃ確実に間に合わねぇぜ?」 とーか「そこ!手が止まってますわよ!あ、そこはこうお願いしますわ!」 筆頭「やれやれ…」 733 :名無しさんなんだじぇ:2011/12/10(土) 21 13 11 ID lsFTCLuA 衣「如何にせん…」 ?「どうしたんだい、扉の前で難しい顔して」 衣「この中でとーかが待っていることは分かる。だが衣は歓待を受けるような事はしておらず… むしろグラハムたちの足を引っ張ることしかしておらぬ…」 ?「なんだ、そんなことかい?君は十分平衡を崩したじゃないか」 衣「衣はなにもなしてない!結局グラハムたちは衣のせいで現に危機と直面しておるではないか!」 ?「でも君がいなければ白衣ちゃんを動かせなかった。 首輪を解除する道を示したのは君の功績だよ」 衣「心にも無い世辞をいうな…!」 ?「お世辞なんかじゃないさ、ただの事実確認だよ。 君はよくやった。歓待を受けるだけの事はしたさ」 衣「しかし…」 ?「それにさ、そこで立ち止まってちゃ、君の従姉妹も気が気でないはずだぜ? 迷子になっちまったかといらぬ心配をかけちまうだろ?」 衣「衣はそんな清澄の嶺上使いのような事はしない!」 ?(へぇ…なるほどねぇ…) 734 :名無しさんなんだじぇ:2011/12/10(土) 22 39 15 ID lsFTCLuA 筆頭「おい…こりゃあ…」 小十郎「なんともまがまがしい…」 幸村「うぅむ!リュウモンブチ殿の指揮通りに作っていたら安土城になったでござる!」 カイジ「一日で城が出来た事自体驚きだが…おい、一体こりゃあどういうこった」 とーか「おかしいですわねえ…ファビュラスな会場を作ろうとしてましたのに…」 部長「ま、まぁ天江さんの到着前に完成しそうでよかったじゃない!」 【安土城二つ目完成直前!】 735 :名無しさんなんだじぇ:2011/12/10(土) 22 57 27 ID lsFTCLuA 衣「そうだな、とーかにこれ以上無用の心配をかけるわけにもいくまい …行くことにする」 ?「その前に贈る言葉じゃ無いが伝えておきたい事があるんだがいいかい?」 衣「なんだ?」 ?「君はどうして自分が死んだ後の現世の様子を承知してるんだい?」 衣「…?よく分からないがおそらく先程の女性二人に教えてもらったはずだが?」 ?「なるほどねぇ…だけど清澄の嶺上使いが迷子癖があるとかなんで君は知っているんだい?」 衣「それは…合同合宿や全国の開会式で…」 ?「おかしいねぇ…君は県大会直後にここに呼び出されたんじゃないのかい?」 衣「な、なにを言いたい!お前の言いよう…まるで…まるで…」 ?「なにかな?」 衣「…衣が…衣でないみたいではないか!」 736 :名無しさんなんだじぇ:2011/12/11(日) 00 05 42 ID EqmCo0yg ひたぎ「やっと新約3巻読み終わったそうよ」 C.C.「随分時間が掛かったな…日付を跨いでいるじゃないか…」 ひたぎ「それで内容についてなんだけど…」 C.C.「いやそれはダメだろ…ここで言っていいことじゃない」 ひたぎ「まあそうよね…って言うかもう今の死者スレの流れがそれを許さないわね」 C.C.「みんな歓迎の準備をしているしな…」 ひたぎ「ユフィさんはひたすら土下座のフォームの最終チェックをしてるしね…」 C.C.「で?お前は土下座の準備をしなくていいのか?」 上条「…え?」 ひたぎ「いやだってあの発言は…ねぇ…」 C.C.「結構傷付いていたと思うぞ…ちゃんと謝っておけ」 黒子「全くですの…」 美琴「うん…あれはちょっと…」 上条「…分かってるよ…焦ってたとはいえ、言っちゃいけないことを言ったってのは…きちんと謝るよ」 ひたぎ「じゃあ今から鉄板の用意をしてもらうように言ってくるわ」 上条「ちょっと待って!!さすがに焼き土下座は勘弁して!!!」 737 :名無しさんなんだじぇ:2011/12/11(日) 01 56 32 ID EqmCo0yg インデックス「ただいま…」 上条「あ、お帰りインデックス…」 インデックス「………はぁ…」 上条「インデックス…」 ひたぎ「元気がないわね…」 C.C.「やっぱりあのことを気にしているのか…」 上条「それはそうだろ…目の前で友達があんなことになったら…」 ひたぎ「え?…あっ、そっちの話?」 C.C.「あぁ~そうか…そっちの話か…」 上条「………何の話だと思ったんだ?」 ひたぎ「いや~てっきり…ねぇ?」 C.C.「ああ…絶対にあっちの話かと…なぁ?」 上条「曖昧な表現でごまかそうとするな…はっきり言え」 ひたぎ「じゃあ、まあ…」 C.C.「ネタバレにならない範囲で…」 上条「言ってみろ」 二人「「彼女は本当にメインヒロインなんですか?」」 上条「絶対に言ってはならないことを!!」 ひたぎ「まあ私も人のこと言えないんだけどね…」 C.C.「ひーちゃんは大丈夫だよ…もうすぐ『恋物語』が発売するから」 上条「…とにかくインデックスを元気づけないとな…あいつも歓迎会に誘うか」 ひたぎ「それって大丈夫なのかしら?」 C.C.「色々な意味で…」 上条「『死者スレ』は何でもアリだろ!?だったら大丈夫だ!!」 二人「「ツッコミがそれ言っちゃダメだろ」」 738 :名無しさんなんだじぇ:2011/12/11(日) 02 23 00 ID JuL/uYCw ?「そうだねえ…君のありようを見るにそのように思えて来るねぇ…」 衣「バカな!グラハムと初めて戦えた時の喜び! 必死になって首輪を解除してくれたあらららぎとインデックスへの感謝! …なんの甲斐も無く心臓が止まったあの無念 全て衣の中にある!これが偽りであっていいはずがない!」 ?「なら何故君は激昂してるんだい?嘘と思うのなら笑って済ませるだろう」 衣「それは…!それは…」 衣「なぁ教えてくれ…この衣は何者だ?衣は衣でないのか…?」 ?「自分が何者で何処へ行くのか…か。 ローティーンなら誰しも思い悩む所だねぇ」 衣「戯れ事を弄ぶな!」 ?「本質的な所は変わらないさ。扉の向こうの連中も多分君と同類だろうしね」 衣「衣はなにをしたらいい…?こんなあやふやな気持ちを…どうしたらいい…」 ?「さてね。悩めばいいんじゃないかい 衣「…」 ?「ま、答えがでないなぞなぞなんて無視してしまうのが一番さ」 衣「なら何故…」 ?「さぁ?こどもちゃんの曇った顔が見たかったから、かもしれないねぇ」 衣「こどもじゃない!衣だ!」 ?「まぁほどなくすべてが終わる。悩む時間もないかもしれない。 …どうするかは君次第だよ。」 衣「…」 ?「では良き死後の旅を」 ガチャ 【衣、死者スレ到着】
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試練/どうあがけば希望?(前編) ◆fQ6k/Rwmu. 【利根川幸雄 ギャンブル船/2階スイートルーム -1 28 37】 「はっきり言わせてもらおう、利根川氏。 貴方を信用すること、それは『悪魔の証明』でしかないと」 ちっ……このグラハムとかいう若造。 軍人と名乗っているだけはある。そう簡単にわしを信用はせんか。 元々こちらが圧倒的に不利というのもあるだろうが、こいつさえいなければあっちの小娘だけなら篭絡できたかもしれんのに。 「帝愛の幹部であった過去があり、情報を持っている。 成程。確かにそれは接触の価値も同行する価値もあるだろう。 ただし、それは貴方が本当に幹部であったことがあり有力な情報を持っている場合だ。 私とて生憎そんな虚言にわざわざ乗るほど酔狂な者ではない。なにしろ同行者がいるのでな。迂闊にこちらの情報は開示できない。 故に利根川氏。貴方が幹部であったということが確実でない限り、私は貴方と共に行動し情報を開示することはできない。 しかし貴方が幹部であったと言う証明はあまりに難しい。 貴方の言う知り合いはこの名簿にたった1人。出会うにはあまりに確率が低いと言わざるを得ない。 その知り合いに遭うのを延々と待っている時間はこちらにない。私達は捜さなければならないものがあるのでね。 知り合いに会えない以上貴方が帝愛の幹部であったと言う証明はまず不可能だ。 さっき話したギャンブルルームの黒服。彼に聞いたとしても同じだろう。 彼らはこの殺し合いにおいては中立の立場を貫いているように思えた。ギャンブルにおいてのみ手を出すのだろう。 それは逆を返せば」 「ギャンブルに関する以外の質問には微塵たりとも答えない、ということ?」 今まで黙っていた小娘が口を突っ込んできた。 小さな体躯に大きなリボン……ふん。最近の小娘どものセンスはわからん。 それでいて口調はたまに古臭い言葉を使う。最近の若者はまったくわからん。 しかし、まさかギャンブルルームなどというものがありしかもそこに黒服の男が配置されているとはな。 4時間以上ここにいてそれに気づかなかったことがばれた時はこいつらに危うく蔑まれそうになった。 『こんな所につれてこられて突然平静でいられる方が不自然だ』と言い負かしてやったがな。 そもそもわしのスタート場所は元々この船内、しかもギャンブルルームよりも上階だ。更に言えばその階から動いていない。 階下のギャンブルルームに気づけず何が悪い。手順矢印も1階駐車場へのタラップを上がってきた奴らを誘導する為のもの。 ギャンブルルームより上の階には張られていないのだ。 にしてもさすが帝愛、会長の考えそうなことだ。殺し合いの中にギャンブルを織り交ぜるとは。しかも血液搾取のシステム。 これはつまり、身体的弱者でも強力な武器を入手できる、そして身体的弱者が身体的強者を殺すことも可能ということだ。そう、この老人のような弱者でも! まあそれにはまず相手をギャンブルにのせねばならんがな。ペリカという餌がある以上できんことはないとは思うが。 黒服の男はギャンブル以外の質問には答えない。これは正解だろうな。私も『向こう側』ならそうさせる。 過剰な干渉は退屈を招く。なぜなら、それは参加者を甘えさせることになる。 それでは見ている方は面白くない。与える情報は最低限………そんな限られた状況で足掻く様………それは観覧者にとって極上のショー………っ! さながら蟻の巣に水を流し込み慌てる蟻どもをみる無邪気で残酷な子供に似た心境っ! 「そういうことだ。例え私たちの後にあそこに誰かが来たとしても、彼は私達のことを教えはしないだろう。 奴らに言わせれば『フェア精神』と言ったところか。 わかってもらえたか。利根川氏。貴方が幹部であったという証拠が無い以上、こちらからの情報開示はできない。 それに信憑性が無いと言うのでは貴方の人間性に疑いを持たざるを得ない。となれば貴方をそう易々と保護は出来ない」 「くっ……!」 私は顔を曇らせた。 言いたいこと言いよってこの若造が。軍人と言いながら民間人を保護する気はなしか。 「………ねえ、グラハム」 辛そうな私の顔に耐えかねたのか、小娘が男に話しかけた。 その声には同情の色が見て取れる。少し前まではわしに恐れている様子が見て取れたが、流石にわしの落ち込み様にその恐怖を引っ込めたらしい。 「何かね衣」 「確かに不確実な事を名乗った老人にも非はある。でもここで見捨てるのはこの老人が可哀相だ。 お願い。衣に免じて1つ、チャンスを上げてくれないかな?」 「チャンス?」 小娘は見かけによらず優しい心根らしい。 男に切り捨てられ後が無さそうな私を見かねて『チャンス』を提案してきた。 私が帝愛幹部であったと言う証明になりそうな『チャンス』。 私にとっては喜ばしい限りだ。 小娘がわしにチャンスをくれた。 そう。 わしの思惑通りにな。 ======= 【衛宮士郎 ギャンブル船/2階ギャンブルルーム -1 10 49】 「改めて歓迎しよう、白井黒子、衛宮士郎、秋山澪……! ようこそ、希望の船『エスポワール』のギャンブルルームへ………!」 船にやってきて手順の矢印の通りに進んできた先にあったギャンブルルーム。 そこに足を踏み入れた俺達を待っていたのは、いくつものギャンブル用の遊戯台、そして黒服の男の拍手だった。 秋山が驚きのあまり気絶しそうなのを白井が気付ける間に男は勝手に喋りだした。 ここにいる人間の中で、唯一首輪を嵌めていない男が。 内容はこのギャンブルルームについて。 ここでは色んなギャンブルができること。ここでは戦闘行為を禁じている事。ただしギャンブル目的以外での長期滞在は禁止。篭城はできないってことか。 協力スタッフ、ハロの存在。わらわらと球が転がってきて喋ってきた時は俺もびっくりした。 秋山に至っては危うく倒れる所だった。今は遊戯台の1つに背を預けて気を落ち着かせている。 ただ白井だけはそれほど驚いたように見えなかったな。単に表情に出にくいだけなのか? 得たぺリカによって景品を獲得できること。トカレフとかベレッタとか俺でも聞いた事のある銃器の名前が俺の手元にあるファイルにざらっと並んでいた。 「質問してよろしいですの?」 大体の説明を終えたらしい黒服に一歩歩み寄ったのは、白井だった。 彼女に漂うどこか凛とした雰囲気。なんか少しだけセイバーに似てるな。 思えば秋山に比べて白井はかなり落ち着いている。もしかしたら俺よりも。この中じゃ1番年下のはずなのに。 「まず1つ。『参加者の位置情報』。景品にこれはありませんの?」 そうだ。ココに来た目的はそもそもそれ。銃器やピザとかは正直どうでもいい。いや武器は欲しいがまずは探し人の所在だ。 「成程。お前たちの目的はそれか」 「わたくし達の名前を即答したことを考えれば、その探し相手も予想ついていそうですわね」 「その点に関してはご想像にお任せする……。 でだ。参加者の位置情報……最後のページから3ページ目、めくってみろ」 そう言われて白井は俺に目を向ける。今ファイルを持っているのは俺だ。俺はその視線を受けてファイルをめくった。 最後から3ページ目……あった。 『参加者1人の位置情報(1時間) 【3000万ペリカ】』 「なっ……!」 「どうしたんですの、衛宮さん」 「おい!なんだよこれ! RPG-7より高いじゃないか!」 俺は黒服にファイルを見せ付けた。 RPG-7。いわゆるロケットランチャーだ。獲得できればかなり強力に違いない。 それですら2500万ペリカ! こいつはそれより更に高額! しかも、3000万ペリカは俺達に支給されたあのICカードの初期残高ピッタリ。つまり、当初の予定通りギャンブルなしで得られても1人の情報しか分からない。 そして得てしまえば俺達は1文無し……!1文無けりゃ、ギャンブルにはもう挑めない!つまりその1人以外の情報は得られないってわけだ。 「くくっ……!何を驚く……! 『参加者の位置情報』。これがこの殺し合いでどれだけの価値を持つか……! 探し人ならばすぐに行けば会えるかもしれない。危険人物ならば近づいてくるのを避けてしまえばいい。 探し人に会えること、危険人物を避けられること。それはかなりの有益!ここでは……! そう……使い方次第では……ロケットランチャーよりも有益……! これは妥当な価格だ。先に言っておこう。変えろという要求は却下する」 「っ……!」 そう言われて俺は黙るしかない。 無駄だ。こいつらは価格を変える気なんて毛頭ない。言っても無駄か……! 「……この情報はどうやって受け渡ししますの?」 「要求者のデバイスに本部から情報を送信させる。1時間の間、当該人物の位置情報がリアルタイムで逐一表示される。相手が移動すれば地図上の光点が移動する。 どうだ。便利だろう」 何が便利だ。 もし相手がここから離れた、南西とかにいたらどうするんだ!1時間じゃ電車を使ってもギリギリ。その間に相手が移動したら元も子もない。 1時間じゃあまりに短い! かといって、3時間、5時間となると更に高額だ。こんなのよほどギャンブルが強い奴じゃないと……いや、ギャンブルが強い奴なんているのか? 結局は運じゃないのか? そうだ、そんなのイカサマでもやらないと……。 「わかりました。では次ですわ。この部屋の安全性に関して。あなたのさっき言った『戦闘行為の禁止』。戦闘行為とはどこまでの範囲を言いますの?」 「どこまでの範囲、とは?」 「銃や刃物はまあわかりますわ。では、誰かが素手で相手を殴った場合、誰かを関節技などで拘束した場合はどうなんですの?」 「殴った場合は、1回時点で忠告。それを聞かず2回目を行った時点で首輪を爆破。 拘束した場合は戦闘行為とは見なさない。ただし、拘束して危害を加えようとした場合は爆破だ」 「では、毒物で誰かを殺害した場合は?」 「!」 白井の言葉に黒服の言葉が止まった。 もしかして、これについては対策がないのか? 『戦闘行為』。考えてみればこれはかなり曖昧だ。 銃や刃物、殴るなんてのは正攻法でわかりやすい。 だが拘束や毒物での殺害。これは相手を妨害し死に至らしめる行為だけど、『戦闘行為』とは言いにくい。 そうだ。『戦闘行為の禁止』。一見安全そうなこのルール。穴がある…! 白井の奴、すぐにこれに気づいたのか!? 「どうなんですの?」 「…………毒物の死に関しては『戦闘行為』とは認められない。よって黙認する」 「あらあら。とんだ『楽園』ですこと」 やっぱり……! こいつらが明確に禁じているのは『明確な戦闘行為』! 毒物とか拘束とか、『分かりにくい戦闘行為』は黙認する……! そして、『戦闘行為』は禁じても『殺害行為』は禁じていない! 「では次。例えばある人物がここに爆弾を仕掛けて出て行った。そしてその後爆発。 この場合は?」 「ハロが四六時中この部屋を監視している。設置は不可能だ」 「それでも、仮にできてしまった場合。もしくは設置がばれた場合は?」 「……」 また黒服が黙った。 『爆弾の設置』。これは戦闘行為か? 「……判明した場合は、黙認する」 「まあ爆発してしまったら貴方もおしまいですものね。 やれやれ大分穴がありますわね、ここは」 白井がいつしかなんだか優勢になってる。 別に俺達はまだゲームをしているわけじゃない。 だが、奴らの『戦闘行為の禁止』。一見楽園に見えるこのルールの穴をつく。 別に穴をついたからって俺達にあまり益はない。だが、『戦闘行為は禁止だから』とここで油断する事は無くなる。爆弾や毒物に警戒が出来る。 「では次。貴方はこの『ギャンブルルーム』及び『特設会場』での戦闘行為は禁止と仰いましたわね? ならば、この『外』からの攻撃。この部屋の上から下を射抜くとか、特設会場が外なら、船の外から狙撃するとか。 その場合は――」 「そこまでだ」 「ひっ……!」 っ! あの黒服……目つきが変わった! って、秋山がまた震えだした!? 本当に繊細だなアイツ! 「警告する。それ以上の質問は『ギャンブル以外の使用目的』と判断し首輪を爆破する」 「あら。これは『ギャンブルをする為にここの安全性を確かめたい』理由で質問しているんですのよ?」 「ギャンブルが始まればそんなものは関係なくなる。要は常に警戒をしていればいいことだ。 既にお前たちが入ってかなりの時間が経った。ギャンブルを行わないならば」 まずい……こいつ、本気で俺達の首輪を爆破する気か!? 「わかりましたわ」 「白井!?」 まさかギャンブルする気か!? いくら元手があるっつっても、1ペリカでも失えば情報が手に入らないんだぞ!? 「ならば純粋にギャンブルについて質問をいたしましょう」 ====== 【天江衣 ギャンブル船/3階スイートルーム -1 00 00】 【白井黒子 ギャンブル船/2階ギャンブルルーム -1 00 00】 「衣は気付いていた。あのギャンブルルームのゲームの中」 「麻雀にブラックジャック、聞きなれたものが多い中、聞き覚えがなかったゲームがありましたわ」 「その数は3つ。グラハムも聞き覚えがなかったらしいし、つまりその遊戯は」 「貴方達帝愛のオリジナルゲーム」 「利根川翁。もしあなたが本当に幹部なら、当然帝愛の作ったゲームは知ってるはずだ」 「わたくしたちにはそのゲームの全貌がまったくわかりません。ですので」 『その3つのゲーム。3つとも全て説明してみせてくれ』 くださいますか?』 ====== 【利根川幸雄 ギャンブル船/3階スイートルーム -0 58 35】 「成程。彼が本当に帝愛の幹部ならば帝愛オリジナルゲームを知り尽くしているはず、か」 「そうだ。ただ……」 「利根川氏。貴方が本当にギャンブルルームに行った事が無い。これが前提だ。 既に貴方がギャンブルルームを見つけ、黒服にゲームを聞いていた場合」 ちっ。疑い深い若造め。 「ふん。恥を忍んで言わせて貰うが、わしは本当に2階にすら降りた事は無い。この槍も3階にある施設の材料で作ったものだ。 貴様らが疑うならそれまでだがな、それこそさっきの話と同じにな」 「………わかった。ギャンブルルームについて話した時の貴方の反応。 かなり真に迫っていたからな。それを信用して貴方に説明を求めよう」 ふん。最初からそう言っていればいいのだ若造が。 そう、これはあの小娘からもたらされたチャンスなどではない。 わしが既に想定したチャンスだ。 奴らとてわしの持つ情報というのが魅力的であるのは事実だ。ただ不信感がそれを妨げる。 それを払拭するにはわしが幹部だったと言う証拠が必要。証言者はカイジしかいないが、あいつに会える可能性などそうない。そんな運否天賦を頼るのは愚者のやること。 それ以前に、わしを叩き落す事になった原因に頼るなどわしのプライドが許さん。利用してやることは呑んでもこれは譲れん。 ならば奴らが提示できるのは、ゲームの内容説明だと踏んでいた。ギャンブルルームについて聞いた時点でな。 勿論ギャンブルルームについて聞いた時の反応は本物だ。そこに行った事が無いのも真実。 そしてだ。 あの若造は『悪魔の証明』だなどと抜かしたが、ふざけるな。 悪魔は存在しない。だからその存在の証拠は提示できない。これが悪魔の証明だ。 だがわしは違う。わしが幹部だった時間は存在する。だから証明が出来る……!悪魔の証明などではない! そう。わしは帝愛のゲームに関わってきた。故にオリジナルゲームも熟知している! 勝算はある。いや、勝算しかない! 「では始めよう。貴方にはゲームの名称とそのゲームのルールをできれば仔細に説明してもらう。 その後、私と衣がギャンブルルームに戻り、そのゲームのルールを聞いてくる。つまり答えあわせだ。 もし合っていれば私達は貴方を信用し、同行しよう。情報もこちらから話す。それが疑った分の謝罪としよう。 ゲームは3つ。よろしいか?」 「帝愛のオリジナルゲームはいくつもある。そこから当てずっぽうで言わせる気か?」 「グラハム。最初の1文字と最後の1文字だけ教えるのはどうだ? それならば知らなければ当てられることはまずないと思う」 「そうだな。それでいいか利根川氏」 「構わん」 そうしてわしとグラハムは向かい合う。部屋の中央にイスを対面になるよう移動させ、それぞれ座り向かい合う。 小娘はメモ帳と筆記用具を手に、扉の近くでこちらを見ている。 奴はわしの説明したルールを記録する役目と、誰かが近づいてきた時それに気づく役目を担っている。だから扉の近くに位置させているらしい。 「では始めよう」 もっとも、これに関しては少し博打の部分はある。 わしとて帝愛の全てのオリジナルゲームを知っているわけじゃあない。ただその知っている割合が高いというだけのことだ。 だが、割合は高い。ここにおいてわしに目は向いている……! わしはこの殺し合いで這い上がるつもりだ。 その座にいたるまでの道は、この2人を抱き込むくらいできずに、再び駆け上がれる簡単な階段ではない! わしがかつて上った大理石の階段はな! 「まず1つ目。最初の文字は」 来い………来い………! 再び………駆け上る力を………! 得るんだ……あの、安全≪セーフティ≫を! 「『い』だ」 な………? 『い』………だと? 『い』………『い』……… 「最後の文字は『ど』。どうだ利根川………氏?」 「ど、どうした利根川!」 若造と小娘が戸惑いながらこちらを見てくる。 ああ、そうさ。当然だ。 わしが今、突然顔を歪ませ笑いだしたんだからなぁ! 「く、くくく……あはははは……! よりにもよって………!よりにもよってそのゲームが来るか! 今のわしに………そのゲームが!」 頭が『い』で最後が『ど』。 ああ、わかる。思い浮かぶ。忘れていない。 いいや、忘れられるわけがあるまい! あのゲームを!! わしが落ちることになった、あのゲームを! 奴に敗北したあのゲームを! やはりツキはわしに来ている……! わしが這い上がる為の第1歩が、わしが落ちることになったつまずきの石なのだから! 「――――だ」 「っ!」 グラハムとやらが目を見開く。 くくっ、軍人といえどまだまだ若造。表情が隠しきれておらんぞ……! 気持ちがいい。もう一度言ってやろう。 「『Eカード』だ。……次はルール説明だったな。ああ説明してやろう。 『奴』に話してやったように、な。ふふふ……!」 ====== 【秋山澪 ギャンブル船/2階ギャンブルルーム -0 49 32】 「Eカードは1対1で対戦するゲームだ。 使うのは3種類のカード。この『皇帝』、『市民』、『奴隷』。 それぞれ配られるカードは5枚。そしてその内訳は決まっている。 『皇帝側』が『皇帝』1枚、市民4枚。『奴隷側』が『奴隷』1枚、『市民』4枚。この『皇帝側』、『奴隷側』の説明は後にする。 次に対戦方法。 これは至って簡単。遊戯台を挟んで向かい合い手札から1枚カードを選び遊戯台に置く。自由に出来る部分はここくらいだ。どうだ、簡単だろう? お互いカードを置きおえたら、先に置いた方からめくる。2枚ともめくり終えたらそこで勝敗判定だ。 なに、勝敗判定はよくある三すくみだ。 『市民』は『奴隷』に勝ち、『皇帝』は『市民』に勝ち、そして……『奴隷』は『皇帝』に勝つ。 この関係に疑問そうだな。まあこれはあくまでこのゲーム上だ。現実において、とかは考えるな。それにあながち……いや、いいな。これは関係のないことだ。 勝敗判定で勝てば、そこでまずその1回は勝利となる。『市民』と『市民』のあいこの場合は当然勝つまで続行。最大5回まで。 あいこに出したカードはその1回の間には手元には戻らない。 次の『1回』ではある3回を除き、手札は最初の通り元に戻る。内訳は変わらない。 これを全部で12回行う。 ただし、3回を4セット。そして1セットごとに、初期手札を変える。 ここでさっきの『皇帝側』、『奴隷側』だ。プレイヤーは1セットごとにこれを入れ替える。 つまり1人のプレイヤーにして見れば、4セットの手札は『皇帝』『奴隷』『皇帝』『奴隷』もしくは『奴隷』『皇帝』『奴隷』『皇帝』の順となる。 そしてカードを出す手順、これは手札を出す『1回』で交代だ。最初は皇帝側が先に出すカードを決定、次の回では奴隷側からだ。 ルールの説明は以上だ」 私がやっと落ち着いてきた時、黒服の人は長々とした説明を終えた。白井さんが要求したゲームの説明。 流石にそれは私にも理解できた。 「なんかややこしいな……」 「そうでもないですわ。奴隷、皇帝とわかりにくい単語で考えるからややこしいんですの」 頭を掻く衛宮くんに白井さんが振り向いた。 「三すくみなのですから、ジャンケンと考えればわかりやすいですわ。 皇帝をグー、市民をチョキ、奴隷をパーとして。 普通のジャンケンと違うのは」 「使える回数が限られているのと、使える手も限られているってところ、ですか?」 私は何とか息を落ち着けて言った。 大丈夫。落ち着いてきた。私にもEカード、大体はわかった気がする。 白井さんは感心したような顔で私を見た。 「その通り。 例えばわたくしが『皇帝側』つまり『グー側』の場合、使えるのはグーが1回とチョキ4回。 衛宮さんを対戦相手としたなら、貴方は『奴隷側』つまり『パー側』、使えるのはパーが1回とチョキ4回。 では衛宮さん。ここで問題です。 貴方が勝てるのはお互いどんな手を出した場合ですの?」 「え? えーっと……。 まず俺がパーを出して、白井がグーを出した場合か?」 「そう。『奴隷側』は『奴隷』を出し、『皇帝側』が『皇帝』を出せば『奴隷側』の勝ちですの。 そして、それ以外に『奴隷側』が勝てるケースはなし」 「! そ、そうか。あとは俺がチョキを出した場合だけ。でも白井はパーを持ってないから、俺はチョキを選んだら絶対勝てない!」 「一方わたくし『皇帝側』は、こちらがグーならば相手がチョキ、こちらがチョキならば相手がパーを出せば勝ちですの」 「そ、それじゃ……『皇帝側』の方が圧倒的に有利ってことか!?」 そう。一見すればそうなんだ。 グーに勝つパーは相手には1枚、チョキに勝つグーは相手になし。 つまり『皇帝側』が負けるケースは『奴隷側』がパーを出した場合だけ…! 「くくっ……説明するまでもなく辿り着いてしまうとは……さすがだな白井黒子。学の違いが出たな」 「あら。やはりわたくし達のこと、知り尽くしているみたいですわね」 口を挟んできた黒服の人に向かって白井さんが厳しい目つきを向けた。 「安心しろ……どっちにしても『奴隷』と『皇帝』は交代して互いに2回担当する。そこで十分にフェアになるだろう。 それに、不利は不利なりのリターンをちゃんと用意している」 「リターン?」 「そうだ。『奴隷側』で買った場合に得られるペリカは、『皇帝側』で買ったときに獲得できるペリカよりも高額になる。 『賭けるもの』が同一でもな」 「なるほど。憎らしいくらいよくできたルールですこと」 「だが白井。そうなると」 「ええ。仮に互いの1枚しかない札を『切り札』としましょう。『皇帝側』ならば『皇帝』、『奴隷側』ならば『奴隷』。 そしてそれぞれ後に札を出す場合。 『皇帝側』の勝利条件は、奴隷が切り札を出さないと判断した時に自らの切り札を打ち込む。『皇帝が市民を討つ』場合。 もしくは、奴隷が切り札を出してきたと判断した時にこちらは切り札を出さない。『市民が奴隷を討つ』場合。 『奴隷側』の勝利条件は、皇帝が切り札を出してきたと判断した時に自らの切り札を打ち込む。『奴隷が皇帝を討つ』場合のみ。 よろしくて?」 「つまり、『奴隷側』は如何に皇帝側が切り札を出すタイミングを見極めるかがカギ、ってことか?」 「そういうことですわね」 「いや、待てよ。『奴隷側』はずっと市民でアイコにしてれば最後には自分に奴隷、相手には皇帝が残るから…」 「ううん。それは危険……だって衛宮くん。もしその間に相手に皇帝を出されちゃったらどうする?」 「あ。そっか……負けちまう。ていうか、やっぱりこれ運なんじゃないのか? 相手が切り札を出すかどうかなんて」 「まあそのあたりの論議は後にしましょう」 白井さんが話を切り上げて再び黒服の方をむいた。 凄いな……年下のはずなのに、凄く落ち着いて頼りになる。あんな怖い人になんで正面から向き合えるんだろう。 物怖じしない。堂々として怖い者知らずみたいなところ…………似てるなぁ。 「さあ。次のゲームについて教えてくださいませ。 『勇者の道』とやらを」 律…………どこにいるんだ? ======= 【利根川幸雄 ギャンブル船/3階スイートルーム -0 40 11】 「……どうだ? 鉄骨渡りに関して聞いた感想は」 「ああ。かなり趣味が悪いゲームだという事は理解した」 「なんだそれは……そんなものはゲームではない、ただの殺人ではないか!!」 『勇者の道』について話してやった後の奴らの反応はそんなものだった。 若造は冷静になりながらもその目の怒りを隠せず、小娘に至っては隠しもしないで激昂する。 まったくそろいも揃って程度の低い。 『勇者の道』は早い話が『鉄骨渡り』。 離れたスタート地点とゴール地点の間に掛かる細い鉄骨。それを渡る。それだけのシンプルなゲーム。 距離は25m。ただしスタートとゴールの間にあるのは距離だけではない。 高さ。そう高さもある。 この高さは実は2つほどある。それはゲームが『座興』か『本番』かで異なる。 『座興』ならば、高さは9m前後。落ちたとしても足を下にしていれば骨折はするだろうが命はまず助かる高さだ。 『座興』の場合は勝利条件に『誰よりも』が着く。1番ならば高い賞金、2着にも順当、3着以下ならば無し。 だがこの状況で『座興』はないだろうな。レース形式となると参加者数が多く必要になる。 目の前の相手を押し、後ろの奴に押されるかもしれない。そういった蹴落としあいが魅力なのだから。 補充するにしても、話じゃあ機械がやるらしい。そんな技術が帝愛にあったはずはないがこれは後だ。 機械なんかじゃ『座興』の面白みはない。奴らがこっちをやる可能性は低いだろう。 となればありえるのは『本番』だ。 『本番』と『座興』の違い。まずは競争ではない事。参加者は向こうに辿り着けばいい。時間制限がある可能性は高い。 本来なら参加するには『座興』で得られるチケットが必要だが……ここは変更せざるを得んだろうな。 次に、鉄骨の幅も長さも同じだが、鉄骨には電流が流される。死なない程度、ただし流れれば転落は必至の電流がな。 これは鉄骨に手を突き座ってただ進んでいくような興ざめな事態を防ぐためだ。 そして最も大きな違い………それは高さだ。 『座興』が9m前後だったのに対し、『本番』は………74m! 実に………約8倍!! 転落すれば……死は免れん! 『座興』を乗り越えた奴らは皆言う。『さっきと同じだ』『長さは同じだ』『もう1度同じようにやればいい』と。カイジもそうだった。 だが違う……! 8倍の高さ………落ちる場所すらわからない、暗闇………! 死の恐怖が足を止め、体を震わせ、幻覚を見る奴すらいる。そして………落ちる………星になる………っ! まあ現実問題、こんな船の中で74mの再現は無理だろうがな。『魔法』とやらもそんなことができるかどうか。 せいぜい落ちる場所に『必ず死ぬ細工』をしておけばいくらか再現は出来るだろうがな。 で、この説明を終えたら小娘が怒り出した。 74mの高さを命綱もなしに足元に電流が流れた状態で渡る。これが許せんらしい。 まったくこれだから平和な場所で安寧している連中は。 学生という安全圏………そこで『平和だ』と微温湯に使っているガキ………。 このゲームが社会の縮図とも知らないで………いつか自分が放り出される場所だとも知らないで。 社会で生き抜けるのは、学生である時点でそれを見抜き勉強する奴らだというのにな。 「何を言う。金を求めて参加するのは奴らの方だ。2000万という大金を目当てにな。 小娘。まだ中学になったかならないかのお前程度ではわからんかもしれんが、世の中とは」 「衣は高2だ」 「…………」 「…………」 「でだ。世の中とは」 「沈黙の後黙殺とはどういうことー!?」 「あからさまな嘘に付き合ってられるか。キーキー喚くな。 2000万という大金はそう簡単に手に入れ」 「利根川氏。その話は後にしてもらえるか。最後の証明に移りたい」 若造があからさまにせかしてくる。 まあいい。長い説明も次で終わりだ。奴らの反応からして今までのものが正解なのは見え見え。 そしてわしにはもう最後のゲームの予想は付いている。 そうだ。名簿を見た時点でヒントはあった。 わしとあのカイジの名前くらいしか知り合いがいない時点で! 間違いない。 ギャンブルルームのオリジナルゲーム、それは全てカイジが経験したゲームだ! Eカードも、『勇者の道』も! 帝愛のオリジナル、わしが何回も見てきたということ以外の共通点はそれだけ! おおかたあの会長の気まぐれだろう。彼はカイジをやけに買っていたからな。無論悪意たっぷりに。 だから奴に苦い経験を思い出させるためにあんなゲームを………。 いや待て。本当にカイジだけなのか? まさか、わしも? わしもあの二つのゲームにはいい思い出が無い。あってもカイジが現れて全て吹っ飛んでしまった。 2つのゲームはわしへの嫌がらせでもあるのか……? まあいい。この証明状況では逆に好都合だ。 そしてカイジが参加したゲームは……あと1つしかない。 他ならぬこの船で行われたゲーム……! 『限定ジャンケン』! 間違いない、最後のオリジナルゲームは限定ジャンケンだ! つまり 「いいだろう。ほれ早くしろ」 「了解した。最後のゲーム、」 最初の文字は………『げ』………! これで決まりだ………! 「最初の」 さあ早く言え。 今お前の仕事はそれだけだ。 さっさと『げ』と言えばいいんだ………っ! さあ言え………言え………! 「文字は」 早くしろ……早くしろ……! 『げ』………『げ』………『げ』………! 「………」 『げ』だ!『げ』だ!『げ』だ!『げ』だ! お前がそういえばすぐに言ってやる! 『限定ジャンケン』とな! 後はお前たちに懇切丁寧に説明すれば終了! これでわしは盾を手に入れ、お前たちに情報をちらつかせることで優位に立つ! そこからわしの道は始まる!あの座に戻る階段が! お前たち屑はわしの盾となり道具となり 「『じ』だ」 使い捨てて…………………。 「最後の文字は『す』だ」 時系列順で読む Back 恐怖の調理法あれこれ Next 試練/どうあがけば希望?(後編) 投下順で読む Back 存在 Next 試練/どうあがけば希望?(後編) 079 大逆転物語 -THE MIRACLE OF THE ZONE- (2) グラハム・エーカー 094 試練/どうあがけば希望?(後編) 079 大逆転物語 -THE MIRACLE OF THE ZONE- (2) 天江衣 094 試練/どうあがけば希望?(後編) 079 大逆転物語 -THE MIRACLE OF THE ZONE- (2) 利根川幸雄 094 試練/どうあがけば希望?(後編) 077 RHYTHM DIMENSION 衛宮士郎 094 試練/どうあがけば希望?(後編) 077 RHYTHM DIMENSION 秋山澪 094 試練/どうあがけば希望?(後編) 077 RHYTHM DIMENSION 白井黒子 094 試練/どうあがけば希望?(後編)
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作者・◆VxAX.uhVsM氏 第六弾です。 これまでかつてないほどカオスになると思います。 1/19 リスタートしました DOLバトルロワイアル4thSS目次(未編集) DOLバトルロワイアル4th参加者名簿 DOLバトルロワイアル4th参加者名簿(ネタバレ) DOLバトルロワイアル4th死亡者リスト DOLバトルロワイアル4thルール・マップ
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52 :名無しさんなんだじぇ:2010/05/24(月) 00 35 45 ID caT1ymtU 刹那「ヒイロ、お前に相談したいことがあるんだ」 ヒイロ「なんだ。今忙しい」シャコン! 刹那「お前は恋愛について詳しいか?」 ヒイロ「潜入捜査のために真似事をしたことくらいはある」ガチャ! 刹那「そうか。俺もそれくらいはある」 ヒイロ「なら問題ないだろう」ドゥンドゥン 刹那「任務ではない、本当の恋愛においてもマニュアル通りの対処でいいのだろうか」 ヒイロ「駄目だろうな」ピーピー 刹那「やはりそうか…ところでさっきからゲージがレッドラインを大きく超えているのだが」 ヒイロ「いや、GNバスターランチャー内に圧力を高めてエネルギーを充填しているだけだ。問題はない」 刹那「そうか…」 ヒイロ「刹那、同じガンダムパイロットとして言っておく」 刹那「ガンダムマイスターだ」 ヒイロ「いくら膨大なエネルギーであっても、精密な管理ができなければ、それは暴走しているのと同じだ。 また、正確な射撃をもっていても、出力が足りなければ目標を射抜くことは出来ない」 刹那「そうか…すまない、礼を言う、ヒイロ」 【GNバスターランチャー充填完了】
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38 :名無しさんなんだじぇ:2010/05/20(木) 09 35 36 ID kOqMJ5l6 セイバー「(ぜーはーぜーはー)ヒサ!しかしやっぱり私はシロウを許せません!」 アーチャー「(ゼーゼー)もう許してやれよ…俺だって好きでふらふらしているんじゃないんだ…」 部長「(ぜーはーぜーはーぜーはー)だから…意識を変えてみたらどう…かしら…」 セイバー「意識を、変える?」 部長「そう、イメージするの。頭に思い浮かべて。さっきの衛宮クンと美穂子との会話」 セイバー「シロオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」 部長「そう。そして、美穂子をセイバー、あなたに置き換えてイメージするの」 セイバー「シロウ…ウェヘヘヘ…こんな甘々シチュエーション、私は嫌いじゃありませんよ?」 部長「そうよ、その調子。私も衛宮クンを自分に投影してみるわ…。ウェヘヘヘ…美穂子ぉ…」 アーチャー「なんというか人間としてダメになっている気がするのだが…」 【おさまった】 39 :名無しさんなんだじぇ:2010/05/20(木) 10 40 26 ID rjeRxKvE アーチャー「セイバーを止める仕事は疲れたんだよ… だからオレは、公式HPでユーザーと会話する仕事で癒されたいんだ!」 バーサーカー「あっちにはセイバーもいませんからね。私もいませんが」 アーチャー「そういうことだから、しばらくは任せていいか? なに、大英雄ならば止められようさ」 バーサーカー「えっ」 41 :名無しさんなんだじぇ:2010/05/20(木) 23 19 23 ID UhXONrWo 池田ァ「相変わらずセイバーは見ているだけなら面白いしw」 カイジ「ん? 随分と冷静だな。てっきりお前も暴走してるのと思ったんだが」 池田ァ「今のキャプテンには誰かの支えが必要だと思うし…とりあえず黒子っ言う彼女が別にいるから安心して任せられると思うし…」 カイジ「池田…」 池田ァ「それにぶっちゃけ、あのエレガントな貴族やバカ馬より奥手で遥かに安全そうだしw」 カイジ「ま、まあ、確かにそうだが…」
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戦場の絆 ◆kALKGDcAIk ヒイロは敵機体を見て僅かに驚きが浮かべた。 ファサリナの搭乗しているMS。 その姿は自分のよく知るガンダムによく似ていた。 だが、あの様なガンダム。いやMSをヒイロは見たこともなかった。 機体の名はガンダムヴァーチェ。 鈍重なイメージを持たせる分厚い装甲。 巨大なキャノン砲を肩部に装着し、拠点攻略などに重点を置かれた機体だ。 サウダーデは上空へ飛び上がった。ヒイロは敵機の見た目から素早い動きは苦手だと考え、空中からの射撃が有利だと判断したのだ。 飛行して相手に狙いを付けられないようにしながら、サウダーデの武装の一つである重粒子弾ライフルの引き金を引く。 重粒子弾の雨がヴァーチェに襲いかかった。 轟音と共に巻き添えになった周囲の半壊したビルは粉々に砕け散り、土煙を生み出す。 一見、ヒイロ有利の展開。しかし、ヒイロの内心は自身に失望していた。 サウダーデのスペックを生かし、空中を高速移動しつつの射撃。 いつもなら何の問題もない動作であった。だが、ヴァーチェに命中させられたのは精々半分。 本来の愛機であるウイングガンダム。いやMSならば、このようなミスは無かっただろう。 ただの機体ごとのクセ程度なら、ヒイロほどの実力なら問題なく動かせた。 ヨロイという世界も、技術も、設計理念も異なる機体。 たとえ慣れ親しんだコクピットに座っていようと、MSとヨロイではヒイロの想像以上に違いが存在したのだ。 「早い殿方は...。嫌われてしまいますわよ」 ファサリナの妖艶な声と共に、土煙の中から破壊の光が飛び出す。 その反撃はヒイロには十分予想範囲内の事であり、回避は容易い。 だが、土煙が晴れたとき、ヴァーチェは一切の傷を負ってはいない。 そちらの事実がヒイロに僅かながら驚きを与えた。 いくら全弾命中させられなかったとしても、多少は傷をつけられてもおかしくない。 ヒイロは落ち着いてビーム砲のトリガーを引いた。 今度はミスなどない。的確な射撃でヴァーチェに破壊の雨が降り注いだ。 だが、それもヴァーチェに届くことは無い。 今度はヒイロの目にもその理由がはっきりと映った。 ファサリナの妖艶な声がコクピットに響く。 「もっと...、もっと激しく攻めてもいいのよ」 ヴァーチェを覆う緑色の粒子にビームは全て防がれていた。 GNフィールド。 圧縮したGN粒子を展開することで強固な防御フィールドを形成する武装である。 その防御力は実体弾はもちろんビーム兵器すら防ぐほど。 「溜まってるものは出しても構わないですわ。こんな風に...」 「くっ……!」 サウダーデを遥かに上回る大出力のビーム砲。 ヴァーチェの真髄はその圧倒的な防御力。そして、そこからの砲撃だ。 ヴァーチェのGNキャノンは戦艦を撃沈するほどの威力を誇る。 直撃すればサウダーデでも一撃で落とされる可能性があった。 防御と火力ではヴァーチェが相手に勝り、機動力ではサウダーデが相手を大きく上回る。 故にお互い攻めあぐねるのが現状だ。 サウダーデはGNフィールドを破ることが出来ず、ヴァーチェには高速で飛び回るサウダーデを捉えることが出来ない。 これが本来のパイロットが搭乗していたならば、お互い状況を破る突破口を見出すことも可能だったはずだ。 サウダーデ本来のパイロットであるミハエル・ギャレットなら、電磁シールドを用いてビームを防いでの接近戦に持ち込めるだろう。 ヴァーチェ本来のパイロットであるティエリア・アーデなら、GNバズーカの火力をもっと活かしての強引な攻めも可能だろう。 機体のスペックだけ理解出来ても、それを最大限に引き出し、応用することは難しい。 他世界の機体に不慣れであること。それが拮抗を生み出す最大の原因となっていた。 この状況下で拮抗を破る手段は少ない。 一番良いのは機体に慣れ、その性能を十分に引き出せるようになることだ。 そして、自らの力量を十分に発揮して相手に打ち勝つ。 事実。二人とも慣れてきたのか射撃の精度は上昇し続けている。 だが、流れを変えるにはまだ足りないのだ。 膠着を打開する術を模索するヒイロの脳裏に一つの選択肢が浮かんだ。 ヒイロがデータを見た時には気がついたサウダーデの機能。 それがこのお互い攻めあぐねている状況を変える手段として有効であると。 「えっ!?」 余裕に満ちていたファサリナの声に初めて驚きが混じる。 サウダーデが武器形態である銃剣へと変形し、突っ込んできたのだ。 オリジナル7であるファサリナはサウダーデの武器形態への変形能力を重々承知している。 しかし彼、ヒイロ・ユイはヨロイをこのシュミレーターで初めて乗ったのだ。 たとえその機能を知っていたしても、ヨロイに慣れていない彼が変形して突っ込むとは予想もしていなかった。 敵の射撃の中を武器形態で突撃することは、猛火に身を晒すようなもの。 その危険性はヒイロなら十分承知のはず。 ファサリナは知らない。 ヒイロの愛機。ウイングガンダムにも武器変形に似たように機能があることを。 バード形態。高速移動用の巡航形態である。 人形から変形しての高速飛行はヒイロにとって慣れ親しんだもの。 銃剣という形態からこの武器形態は突撃にも耐えられる。 この拮抗を打開するに多少の強引さは不可避であるとヒイロは判断したのだ。 その判断は正解だった。 高速で接近するサウダーデに対し、驚きによりファサリナの判断が遅れたこともあって、対応出来ない。 天翔ける銃剣がヴァーチェの胸部を捉えた。 巨大な激突音が響く。GNフィールドは衝撃まで無効化は出来ないのだ。 ヴァーチェはその衝撃で大きく吹き飛ばされた。 「あら、意外と強引なところもあるのですね...」 ファサリナが態勢を立て直そうとした時には既にサウダーデは人型に戻り、その銃口はヴァーチェのすぐ近くにあった。 「この距離ならバリアは張れないな」 ヒイロは勝利を確信する。 小回りの効かない巨大な機体ではこの状況を脱するのは不可能だと。 だが、絶体絶命の危機にもファサリナは妖しく微笑んだ。 「でも、そんなに乱暴ですと...、花びらを散らしてしまいますわ」 その瞬間、ヴァーチェの装甲が弾け飛ぶ。 「何ッ!?」 ヴァーチェの予想外のアクションにヒイロはとっさに後ろに飛ぶ。 幸い、弾け飛ぶ装甲の勢いは弱い。問題なく距離をとることは出来た。 ヴァーチェは先程までは想像も出来なかった姿を晒していた。 鈍重な装甲を脱ぎ捨てた下には、先ほどとは打って変わって細身の体型。 頭部から伸びる赤いケーブルはまるで女性の髪の様。 それは細身の手足と相まってどこか女性的な印象を与える。 「装甲をパージさせたか」 「ガンダムナドレ...。どうやら、こちらの方が私に合うみたいですね」 サウダーデの銃口から牽制の意味を含めた重粒子弾が打ち出される。 だがそんなモノはもう、ナドレの戦いのステージを飾る一要素に過ぎない。 その姿は鈍い蛹から脱皮した蝶のごとく。 華麗なステップで重粒子弾の雨を掻い潜る。 先程は肩部のキャノン砲として用いていたGNキャノンを手持ち武器として隙を見つけては撃ち返す。 もはや戦況は互角。 飛び交う光弾。舞い上がる粉塵。 僅かに残っていたビルの残骸すら砕け散り、互いを遮るものなど何もない。 一対一。正々堂々とした戦いの場。 ヒイロの胸にほんの僅かだが、熱いものがこみ上げていた。 それは本人すら気付いていない。 ヴァーチャルなこの戦いで。いや、ヴァーチャルだからこそ。 作戦や目的など意識せず、ただ相手との技量を競う戦い。 普段とは違った戦いへの意識だった。 一瞬だがヴァーチェの動きが止まった。 当然、ヒイロはその隙を見逃さずに距離を詰める。そしてそのまま銃剣で斬りかかる。 だが、その刃がヴァーチェに届くことは無かった。 コクピットの計器から光が消えていく。 サウダーデはもう動かなかった。 モニターには戦いの結果を表す言葉が並ぶ。 YOU WINと。 ◇◇◇◇◇ 「降参です...。私の負けですわ」 「どういうつもりだ。あのままなら勝負は分からなかったはずだ」 シュミレーターから出てきたファサリナに、ヒイロは言い寄った。 ファサリナの紅く染まった頬。荒い呼吸。 普通の男性なら劣情を催すのも無理のない姿だ。 男を惑わす女性の色香が周囲に漂う。 しかしそんなこと、ヒイロにとってはどうでもいいことだった。 「ヒイロの実力は十分知ることが出来ました...。これ以上は時間の無駄です」 僅かに憂いを秘めた表情でファサリナは語る。 「それに...、いくらシュミレーターでもあのヨロイを破壊する気持ちにはなれません...」 サウダーデに対して、ファサリナが一体どのような思いを抱いているのか、ヒイロは知らない。 ただ、その顔を見てそれ以上追求する気は無くなった。 「……もういい。だが勝負は勝負だ。最初の約束通り、B-2に向かう」 ヒイロが心に抱く微妙な感情を受け入れてくれた事を感じ取ったのだろう。ファサリナの表情は既にいつも通りになっていた。 「ええ勿論です」 ヒイロはふと、シュミレーターの脇に小さな冊子が置いてあることに気がついた。 シュミレーターの解説冊子だった。 パラパラと捲った所、使用できる機体のスペックなどについて記載されているようだ。 「どうかしましたか?」 ヒイロはその内の一冊をバックの中に突っ込んだ。 「何でもない。行くぞ」 【C-3/憩いの館(地下ゲーセン内)/1日目/午前】 【ファサリナ@ガン×ソード】 [状態]:健康 [服装]:自前の服 [装備]:ゲイボルグ@Fate/stay night [道具]:基本支給品一式、ランダム支給品2個(確認済み) M67破片手榴弾x*********@現実(ヒイロとはんぶんこした) 軽音部のラジカセ@けいおん(こっそりデイバックに入れた) [思考] 基本:ヒイロと協力して主催者を打倒する、それが無理だと判断した場合殺し合いに乗る 0:B-2の間欠泉へ向かう 1:ヒイロと共に行動する 2:間欠泉を調べ終わったら、早く新しい同士を集めたい 3:「カギ爪の男」が本当に死んだのかを確かめる 4:新たな同志が集まるまではなるべく単独行動は避けたい 5:明確な危険人物の排除。戦力にならない人間の間引き。無理はしない。 6:ゼロを名乗る危険人物の排除 [備考] ※21話「空に願いを、地に平和を」のヴァン戦後より参戦。 ※トレーズ、ゼクスを危険人物として、デュオ、五飛を協力が可能かもしれぬ人物として認識しています ※ヒイロを他の惑星から来た人物と考えており、主催者はそれが可能な程の技術を持つと警戒(恐怖)しています ※同志の死に疑念を抱いていますが、ほとんど死んだものとして行動しています ※「ふわふわ時間」を歌っている人や演奏している人に興味を持っています ※ラジカセの中にはテープが入っています(A面は『ふわふわ時間』B面は不明) 【ヒイロ・ユイ@新機動戦記ガンダムW】 [状態]:左肩に銃創(治療済み) [服装]:普段着(Tシャツに半ズボン) [装備]:基本支給品一式 コルト ガバメント(自動銃/2/7発/予備7x5発)@現実、M67破片手榴弾x*********@現実(ファサリナとはんぶんこした) [道具]:B-2と記された小さな紙切れ@現実 『ガンダムVSガンダムVSヨロイVSナイトメアフレーム~戦場の絆~』解説冊子 [思考] 基本:主催側の技術を奪い、反撃する 0:B-2の間欠泉へ向かう 1:ゼロを名乗る危険人物の排除 2:今のところはファサリナと協力する 3:リリーナ…… 4:人を生き返らせる方法…… 5:ユーフェミアは…… [備考] ※参戦時期は未定。少なくとも37話「ゼロ対エピオン」の最後以降。 ※D-1エリアにおいて数度大きな爆発が起こりました。 ※ヴァンを同志の敵と認識しています ※ファサリナの言う異星云々の話に少し信憑性を感じ始めています。 ※ファサリナのことは主催に対抗する協力者として認識しています。 ※それと同時に、殺し合いに乗りうる人物として警戒もしています。 【『ガンダムVSガンダムVSヨロイVSナイトメアフレーム~戦場の絆~』解説冊子@オリジナル】 憩いの館、地下ゲームセンターにおいてあったシュミレーターの解説冊子。 シュミレーターにて使用できるMS、ヨロイ、ナイトメアフレームのスペックや武装などが記載されている。 なお、解説冊子は地下ゲームセンターに複数置いてある。 記載されている機体の種類や機体数については後の書き手さんにお任せします。 時系列順で読む Back 試練Next Turn Next 幸村ああああああああああああああっ!!(前編) 投下順で読む Back みんな! 丸太は持ったか!! 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